2010年3月19日 第57回サイエンスカフェ
土と植物をつなぐ、菌根菌の不思議
講師:齋藤 雅典 東北大学大学院農学研究科 教授
プロフィール
東京大学において博士課程修了後、農林水産省へ入省。盛岡(東北農業試験場)、那須(畜産草地研究所)、つくば(農業環境技術研究所)の研究所で、土壌と肥料、土壌微生物の研究などを行い、2008年4月から現職。
リン肥料の原料となるリン鉱石資源は限られていて、数十年で枯渇すると危惧されています。農作物の生産に必須のリンを、いかに無駄なく効率的に利用できるかが、ますます重要になります。菌根菌は、リンを作物の生産に上手に利用するための鍵となるかも知れません。
開催情報
開催日:2010年3月19日(金)18:00~19:45
会場 : せんだいメディアテーク
概要
Q&A
リンの資源が限られているということだが、菌根菌を利用して集められないか。
リン鉱石として採掘可能なリン資源は限られており、残り60年~100年などと言われています。そのため、さまざまな分野でリンの循環的に利用するための技術開発が進められています。ご質問は、「菌根菌の機能を利用して、土の中のリンを資源として回収できないか?」ということと思います。植物の根に共生する菌根菌が吸収したリンは植物へ移行して植物に利用されます。ですから、菌根菌と共生した植物にリンをたくさん吸収してもらって、その植物を堆肥などにして別の作物へ利用することは可能と思います。私たちは、このようなリンの循環利用の観点を入れた農作物の栽培技術についても、研究を進めています。
土中についてしまったリン酸を植物が吸いやすくなるような菌などはないのか。
土の粒子は一般的にリンを強く固定する特徴があります。土に固定されたリンの多くは、植物によって吸収することができません。土の中には、こうしたリンを溶かし出す能力をもった微生物「リン溶解菌」がいます。リン溶解菌は、有機酸などの酸性物質を分泌して、それでリンを固定しているアルミニウムや鉄などの土壌成分を溶解し、固定されたリンを溶解します。リン溶解菌の作物栽培への利用に向けた研究が進められていますが、土の中でリン溶解菌だけを作物栽培に都合よく働かせる技術が難しく、わが国では実用化には至っていません。
菌根菌の選抜は可能なのか。
菌根菌は種類によって、リンを吸収する能力が違っていたり、土の性質(酸性、アルカリ性など)によって適不適があったりします。そのため、どのような種類の菌根菌が、作物や土に適合し、作物栽培に有効であるのかを、調べて、有効な種類を選抜する研究が進められています。現在、わが国で農業用資材として市販されている菌根菌資材も、そのような研究によって選抜されたものが使われています。
管状液胞だとリンを運搬する際、何か利点があるのか。
このことについては、現在、お答えできるデータがありません。菌糸に隔壁のないアーバスキュラー菌根菌の場合、活発に細胞質流動が起こっている時(活発にリンを輸送している時)のみに管状液胞が観察されます。菌糸内での細胞質の運動やリンの輸送と管状液胞の構造が相互に深く関連しているものと考えられます。菌糸に隔壁がある外生菌根菌では、液胞が蠕動運動をして押し出すようにリンを運搬しているのではないかと言われています。
長ネギの栽培試験時に土壌中にどれくらいのリン酸があったか、またどれくいあれば良いのか。
私たちが昨年試験を行った2カ所の圃場の可給態リン(作物が吸収しやすいリンの量)は、30mg P2O5/100g乾土と100 mg P2O5/100g乾土でした。このくらいリン酸肥沃度が高いとネギの栽培は容易です。ただ、昨年の試験では、菌根菌の接種についてはっきりした効果を得ることはできませんでした。一般的に、菌根菌は土のリンの肥沃度の低い場合に効果があります。土の中にリンが多いと、植物は菌根菌の助けを借りるよりも、そのリンを自分で吸収します。私たちは、これまでに多くのリン肥料が施用されて土の中にリンのたまっている畑で、どのように菌根菌を利用すればリンを循環的に利用できるか、現在、研究を進めています。
当日の様子