2018年2月23日 第149回サイエンスカフェ
宇宙に響くさえずりとジオスペース
講師:加藤 雄人 東北大学大学院理学研究科 准教授
プロフィール
1975年山形県生まれ。2003年に東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻にて理学(博士)取得。京都大学生存圏研究所研究員、日本学術振興会特別研究員を経て、2012年より現職。2016年12月に打ち上げられたジオスペース探査衛星「あらせ」ではソフトウェア型波動粒子相互作用解析装置の副装置責任者を担当。スーパーコンピュータを活用したシミュレーション研究も駆使して、地球を含む惑星の環境とその普遍性について明らかにしたいと考えています。
開催情報
開催日:2018年2月23日(金)18:00~19:45
会場 : せんだいメディアテーク
概要
地球の周りの宇宙空間はジオスペースと呼ばれ、オーロラをはじめとする様々な現象が絶え間なく生じています。「宇宙のさえずり」とも称される特徴的な自然電波?コーラスを取り上げて、ジオスペースの科学について考えてみましょう。
Q&A
Q. C領域とA領域がどのように関連しているか?
A. 理学研究科地球物理学専攻は、A領域(固体地球系)?B領域(流体地球系)?C領域(太陽惑星空間系)で構成されています。地球を含む惑星全体の現象との関わりを考える研究、分野の枠を超えた研究も行われています。対象とする現象は様々ですが共通の物理学を基礎としていること、自然現象を研究する上で重要となる計測手法や解析手法の基礎も共通していることから、地球物理学専攻では講義や特色のある実験を通じて物理的な考え方、観測の基礎をじっくり教育しています。
Q. 磁場の発生、他の惑星について、どうやって知ることができたのか?
A. 太陽惑星空間系の関わる研究分野は、19世紀後半の地磁気の観測から発展してきた歴史を持っています。地磁気の変動から、宇宙空間で発生する現象との関わりについての研究が進められてきました。また、岩石の残留磁化を測定することで、過去の地球磁場について調べることが可能となり、磁場の発生に関する研究が進められています。さらに、探査機により他の惑星の磁場を直接計測して調べることにより、地球との違いや固有磁場の成り立ちに関する研究も進められています。
Q. ポールシフトが起きた時のプラズマやオーロラの変化をもっと知りたい。
A. 地球の磁場を棒磁石で近似した時に、その棒磁石の軸(磁軸)は少しずつ移動していることが知られています。移動の理由は主に地磁気の永年変化で、数十年から数百年の間にゆっくりと数度の範囲で変化しています。数時間から数日で変化するジオスペースのプラズマやオーロラに比べると、非常にゆっくりとした変化です。
一方で、過去の地磁気の研究からは磁極の反転や地磁気が非常に弱かった時期があることが分かっています。その時にプラズマやオーロラにはどのような変化があるのかを、例えば固有磁場が無いか非常に小さい火星や金星を探査することで考えることができます。また、木星のように非常に固有磁場が強く高速に自転する惑星の探査から、地球と異なる環境でのプラズマやオーロラの変化を明らかにすることができます。他の惑星の環境を調べることは、地球をよく知ることにも繋がる大事な意義を持っていると考えています。
Q. 木星等、他の惑星でもさえずりは観測されているのでしょうか。また、惑星ごとにさえずりの特徴に違いはあるのでしょうか。
A. 過去の探査機によって、水星を除く太陽系のすべての磁化惑星でさえずり(コーラス放射)が観測されています。さえずりの周波数は、さえずりが発生する場所での磁場の強さで決まると考えられています。太陽系では木星がもっとも固有磁場が強いことが知られていますので、木星で観測されるさえずりは周波数が高いのではと想像できますが、実はどの惑星のさえずりも似通った周波数になっていることが明らかとなっています。これは、磁場の強さは惑星からの距離が離れるほど小さくなるためで、さえずりが発生する場所が惑星ごとに異なっていることを示しています。どのようにしてさえずりが発生する場所が決められているのかは、さえずりを発生させるプロセスでエネルギー源となる高エネルギー電子が関係していると考えられますが、現在も進行中の研究課題です。
なお、さえずりが水星で観測されていないのは、過去に水星を調べた探査機には電磁波を観測する装置が搭載されていなかったことが理由です。2018年10月に打ち上げ予定の日本とヨーロッパとの共同ミッション「ベピコロンボ(BepiColombo)」は水星の磁場と磁気圏、内部、表層を初めて多角的?総合的に観測する計画で、電磁場を計測する装置も搭載されます。水星でもさえずりが発生しているのか、惑星の磁場?磁気圏の普遍性?特異性はどうあるのか、ベピコロンボの観測結果に大変期待しています。
当日の様子