2019年4月19日 第163回サイエンスカフェ
多種共存の森~その仕組みと恵み~
講師:清和 研二 東北大学大学院農学研究科 教授
プロフィール
北海道大学農学部卒業、北海道立林業試験場研究職員、東北大学農学部助教授を経て現在に至る。
開催情報
開催日:2019年4月19日(金)18:00~19:45
会場 : せんだいメディアテーク
概要
森は多様な樹種が共存する豊かな生態系です。どのようにして多くの種が混じり合い共存することができるのでしょうか。その精妙なメカニズムを解説します。さらに多様性の回復は地球環境をどう改善するのか、についても最新の成果から解説します。
Q&A
Q. 多様性回復の過程で広葉樹を植えると遺伝子汚染が発生しないか?対応方法案はありますか?
A. 人工林の多様性回復は、周囲の自然林からの種子散布によるものが、コストも減るし、遺伝子撹乱も防げるので、そのような方法を推奨しています。
Q. 林業の担い手の確保のあり方について今後どのようなものが望まれますか。とても難しい問題だとは思いますが。
A. やはり、誇りある職業として、森林生態系を再生しながら木材利用していくといった、最新の科学的知見に裏打ちされた職業であるべきです。そのためにも多様な樹種の高度利用の開発が不可欠です。
Q. 孤立する木、群れる木に分かれるのはなぜか?
A. 最新の考えでは、孤立しやすい樹は、アーバスキュラー菌根菌と共生するタイプに多く、群れる樹は外生菌根菌と共生するタイプに多いのではないか、と言われています。大きな太い樹木の下には種得異性を発達させた病原菌がいるのですがアーバスキュラー菌根菌はそれらの病原菌から実生を守る力がなく、子供達は親から離れて分布するようになり、お互い孤立します。一方、外生菌根菌は親木の近くで子供達を守り、かつ栄養補給をするので親木近くに分布しやすく、同種の木々は群れるようになるのではないか、と言われています。
Q. 森の多様性についてJanzen ConnellモデルとBennettのNature発表との話しが面白かった。温帯と熱帯での差は何故生まれるのかが疑問。
A. 熱帯ではほとんどの樹種がアーバスキュラー菌根菌と共生するタイプです。従って、上記の質問の答えのように、このタイプの樹木では子供達は親から離れて分布するようになり、お互い孤立します。ひいては種多様性が増すようになります。温帯ではブナやカンバ類など外生菌根菌タイプが多く、群れる樹種が多いので多様性が減るのではないか、と考えられています。 もちろん、他の気象(温度、降水量)や地史的な要因も大きく関わってきます。
Q. 台風、大雨で山の崩壊=杉等の被害。その後は手付かずか?植林中か?その結果、環境に変化の有無。カミキリ虫の幼虫が杉に大被害を与えた(約30年前)その後の害の実態は?
A. 九州などの人工林は挿し木苗が多く、遺伝的にも多様性に乏しく、混み合うと根の土壌緊縛力が著しく減少すると言われています。 ただ、このような崩壊の被害は間伐などの手入れ不足と言われていますが、私は生物多様性の減少によるところが大きいと考えています。しかし、まだ、実証はされていません。
当日の様子