2011年 | プレスリリース
宇宙におけるRNAi効果の検証に関する成果(宇宙の無重力による筋肉や骨の委縮に対する新たな挑戦)
宇宙の無重力下では骨格筋に対する物理的負荷が低下して、筋肉や骨が萎縮することが知られています。また、人類による火星探査や宇宙ステーションでの長期滞在は、宇宙放射線の影響により白内障の発症やDNA損傷のリスクが想定されます。これらの宇宙環境リスクの克服は、勿論、人類が宇宙に長期滞在し活動する上で不可欠であり、また、普段の私たちの生活においても「寝たきり」や「ガンをはじめとする成人病疾患」に対処としても重要なものとなります。
RNAi(RNA interference: RNA干渉)は、二本鎖RNAと相補的な配列を持つmRNA(メッセンジャーRNA)が特異的に分解される現象で、特定の遺伝子発現のみを選択的に抑えることができます。この方法は、98年、モデル生物のひとつである線虫を用いて、米国研究者らにより発見され、その後、ヒトをはじめとする哺乳類の細胞においても同様の働きの存在が明らかにされました。06年には発見者の2氏に対して、ノーベル生理学?医学賞が贈られました。現在、RNAi法は、ヒトの発ガンや眼の疾患などに対する遺伝子治療のひとつとしての研究開発も進められています。
私たちは、98年の画期的な発表論文に触発され、同年、線虫のDNA損傷の修復に関わる遺伝子についてもRNAiを用いた機能解析ができることを報告してきました。また、04年には、線虫国際共同実験(ICE-First)に参画して、宇宙フライトにより線虫の筋肉タンパク質が低下することも示してきました。このような経緯から、05年に実施された宇宙実験に関する第5回ライフサイエンス国際公募において、「線虫C. elegansの宇宙環境におけるRNA干渉とタンパク質リン酸化:CERISE (C. elegans RNA interference Space Experiment)研究代表 東北大?東谷篤志」の実験提案を行い採択に至りました。一方で、スペースシャトルコロンビア号の事故調査などで、実際の実験開始は、国際宇宙ステーション「きぼう」実験棟が完成した09年になり、09年11月STS-129スペースシャトルアトランティス号に実験材料を搭載して、11月19日から8日間「きぼう」実験棟での宇宙実験を行いました。サンプルは宇宙で凍結して、10年2月のSTS-130スペースシャトルエンデバー号で地上に帰還してもらいました。
これらサンプルを東北大学、宇宙航空研究開発機構JAXAと英国ノッティンガム大学とで共同で解析し、その結果、宇宙環境の無重力下においても、3つの異なる遺伝子(線虫に遺伝子組換えした緑色蛍光タンパク質GFP、細胞増殖に必須のタンパク質、筋肉を構成するα-アクチンを分解する分解酵素)をターゲットとして、それぞれ選択的なRNAi効果が確認されました。将来的には、宇宙飛行士の無重力下における筋肉の委縮を抑える対策のひとつとしての応用展開が期待されます。
本研究成果は、PLoS One誌に4月21日付けで受理され、近日中にinternet上で公開される予定です。
(お問い合わせ先)
東北大学生命科学研究科教授
東谷 篤志 (ひがしたに あつし)
電話番号:022-217-5715、022-217-5745
Eメール:ahigashi*ige.tohoku.ac.jp(*を@に置き換える)
関連するホームページ:
http://kibo.jaxa.jp/experiment/theme/first/cerise/
http://kibo.jaxa.jp/experiment/theme/first/cerise/report.html