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非結晶学的対称性を持つシリカメソ多孔体 ~金属元素を全く含まない初の無機物質系準結晶の作製に成功~

 近年の化学合成技術の進歩によって、従来の合金系準結晶に加えて高分子やコロイドなどの有機分子(いわゆるソフトマター)を用いた準結晶の作製が可能になってきました。一方、最近では、ソフトマター以外にも酸化鉄‐金ナノ粒子凝集体が新しいタイプの準結晶を形成することが報告されています。これらの新しい準結晶は、合金系準結晶に比べて桁違いに大きなメソスケール(20~500?)において特徴的な構造秩序を示し、結晶学的に許されない十二回対称性を持ちます(十二回対称準結晶)。この構造特性は完全フォトニックバンドギャップの発現に有利であると考えられ、将来的に光学的応用につながる可能性が期待されています。しかし、合金系準結晶とは対照的に、上記の物質は現状では大きな構造乱れを含むため、実際の応用にはより精密な構造制御を実現することが不可欠です。

 シリカメソ多孔体は、界面活性剤ミセルの自己組織化により形成する構造体をテンプレートとして作製され、化学的手法による系統的な構造制御が可能な物質系として知られています。今回、ストックホルム大学と東北大学を中心とした研究グループは、ミセル間相互作用を化学的に調整することで、十二回対称性を示す新しいタイプのシリカメソ多孔体を作製することに成功しました。この物質は正十二角柱の外形を持つ数ミクロンの粒子であり、その断面の高分解能電子顕微鏡像を見ると、正方形と正三角形の構造単位によるタイル張りが観察されます。このタイル張りを詳細に解析した結果、断面の中央に十二回対称準結晶が形成し、十二枚の結晶ドメインがそれを放射状に取り囲んでいることが確認されました。中央部分の構造は、既存のメソスケール準結晶と比較して高い準結晶性を示しています。

 得られた準結晶は、ミセルが取りうる複数の異なる局所的配置が、非平衡構造成長過程の中で互いに競合することによって形成したものと理解することができます。このことを立証するため、本研究グループはミセル間相互作用を考慮した簡単な理論モデルを導入し、構造形成過程のモンテカルロシミュレーションを行いました。その結果、実験的に観察されたものと同様な構造を計算機上に再現することに成功し、また、その為に必要な物理的条件が実際の物質の合成条件と良く対応していることを示すことができました。

 今回作製された物質は、構造乱れの抑制されたメソスケール準結晶としてのみならず、金属元素を全く含まない初めてのハードマター(無機物質系)準結晶としても重要な意味を持っています。今回の成果を手掛かりとして、構造乱れのさらに少ない理想的な準結晶の作製が進み、応用への道が開けることを期待しています。

 今回の成果は、2012年7月19日付Natureに掲載されました。

 

 

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[お問い合わせ先]

東北大学多元物質科学研究所

助教  藤田 伸尚
電話:022-217-5723
メール:nobuhisa*tagen.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

教授  蔡 安邦
電話:022-217-5594
メール:aptsai*tagen.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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