2015年 | プレスリリース?研究成果
光合成で働くサイクリック電子伝達経路の新たな生理機能を解明 ~二酸化炭素濃度の削減や食料増産に期待~
JST戦略的創造研究推進事業において、千葉大学 環境健康フィールド科学センターの矢守 航助教らは、イネを材料にサイクリック電子伝達経路の1つであるNDH複合体に依存する経路が弱光環境下における光合成制御に重要な役割を果たすことを解明しました。
植物は刻々と変化する気象条件の下、太陽光から光エネルギーを吸収して、電子伝達反応によって直接利用可能な化学エネルギーに変換し、それらを利用してCO2を固定し、生命の維持に必要な糖やデンプンを生産しています。光合成における電子伝達経路には、リニア電子伝達経路とサイクリック電子伝達経路が存在することが知られています。後者のサイクリック電子伝達経路は半世紀以上も前に発見されましたが、その生理機能の全体像はいまだに解明されていません。特に、NDH複合体に依存するサイクリック電子伝達経路は、モデル植物を中心に長年にわたり研究が行われ、夏季の直射日光のような強光や乾燥などの環境ストレスの緩和に重要だと論議されてきました。
矢守助教らは、主要作物であるイネを材料に、NDH複合体を欠損したイネの変異体を使って、2つの電子伝達経路とCO2ガス交換を同時測定するという最新の手法を用いた解析を行い、NDH複合体に依存するサイクリック電子伝達経路は強光環境ではなく、むしろ曇天や薄暮などの弱光環境下の光合成電子伝達反応の最適化に重要であることを世界で初めて明らかにしました。今後、弱光環境下における光合成の最適化メカニズムの解明を進め、光合成効率の改善のみならずバイオマス生産量の確保に結びつけることで、地球レベルの大気CO2濃度の低減や食料増産が期待されます。
本研究成果は、京都大学の鹿内 利治教授と東北大学の牧野 周教授と共同で行ったものです。
本研究成果は、2015年9月11日(英国時間)に英国科学誌「Scientific Reports」のオンライン版で公開されます。
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