2018年 | プレスリリース?研究成果
ブラックホールにおける量子もつれが既知の"限界"より強い可能性を明らかに ホーキング博士の議論の穴を発見
東北大学大学院理学研究科の堀田昌寛助教、山口幸司(博士課程前期2年)は、名古屋大学理学研究科の南部保貞准教授と共同で、ブラックホールから輻射が出る過程を模倣した量子ビット模型を提案し、その性質の理論的研究を通して、ブラックホールがこれまで考えられていた"限界"よりも強い量子的なもつれを共有できる可能性を見出しました。
ブラックホールは現代物理学の課題のひとつである量子重力理論の完成に向けて重要となることが強く期待される研究対象のひとつです。ホーキング博士によって導入されたベッケンシュタイン?ホーキングエントロピーはブラックホールの熱的なエントロピーであるとこれまで考えられており、それが量子もつれの強さの上限を与えると信じられてきました。堀田助教らは量子ビット模型を用いてこの議論の不十分な点を見出し、これまでの理論的予想が、ある種のブラックホールに対しては成り立たない可能性を指摘しました。この量子ビット模型はブラックホールの熱的な性質を再現するものになっており、そこでは零エネルギーの輻射(注1)が重要な役割を果たします。この零エネルギーの輻射が量子もつれを共有できることから、ブラックホールが極めて高温な防火壁で覆われているという仮説が論理的必然でないことを明らかにしました。
本研究の成果は、米国物理学会誌Physical Review Lettersに2018年5月4日(米国東部時間)オンライン版に公開されました。
図1:ブラックホールから輻射が出る過程を模倣する量子ビット模型の模式図。図中の球はそれぞれ量子ビットを表し、色の違いはエネルギーの違いを表す。高いエネルギーにある量子ビット(オレンジ色)はエネルギーを外に放出することで零エネルギーの状態(青色)になる。零エネルギーの量子ビットは零エネルギーの輻射に崩壊していく。後者の過程が十分多く起こるとき、高いエネルギーにある量子ビットの割合が大きくなっていくため、エネルギーが外に持ち出されるにもかかわらず量子ビット系の温度は高くなっていく。
図2:ブラックホールが輻射を出しながら消失していく過程の模式図。ブラックホールはホーキング輻射を放出しながらエネルギーを失い収縮していく。近年の研究から、零エネルギーの輻射も同時に放出されるだろうと予想されている。
【注1】零エネルギーの輻射
エネルギーを持たない輻射のこと。重力を記述する理論(一般相対論)が持つ、一般座標変換対称性の一部である超時間推進対称性から導かれる輻射(保存カレント)はソフトヘアと呼ばれるエネルギーを持たない輻射であり、ブラックホールが消失する過程においてこのソフトヘアが重要である可能性が議論されている。
問い合わせ先
<研究に関すること>
東北大学大学院理学研究科物理学専攻
助教 堀田 昌寛(ほった まさひろ)
電話:022?795?6427
E-mail:hotta*tuhep.phys.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
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東北大学大学院理学研究科
特任助教 高橋 亮(たかはし りょう)
電話:022?795?5572、022-795-6708
E-mail:sci-pr*mail.sci.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)