2018年 | プレスリリース?研究成果
ステロイド治療に反応を示す一次性ネフローゼ症候群の病因遺伝子群を同定
【発表のポイント】
- 国の指定難病の一つである一次性ネフローゼ症候群注1のなかで、ステロイド治療に反応を示す17家系に対しゲノム解析を行い、6つの新しい病因遺伝子を同定した。
- 同定された6つの遺伝子は、いずれも同一シグナル伝達経路の因子であり、これまで不明であったステロイド剤の作用機構の理解に重要な知見を与えた。
- 同定されたシグナル伝達経路を治療標的とすることで、副作用が問題となっているステロイド治療に代わる新規治療開発への貢献が期待される。
【概要】
東北大学大学院医学系研究科小児病態学分野の工藤宏紀(くどう ひろき)医師、菊池敦生(きくち あつお)助教、呉繁夫(くれ しげお)教授らの研究グループは、ボストン小児病院のFriedhelm Hildebrandt教授らの研究グループと共同で、ステロイド治療に部分的に反応を示す一次性ネフローゼ症候群17家系から、新規原因遺伝子群(6遺伝子)を同定しました。ステロイド治療に反応性を示すネフローゼ症候群(ステロイド感受性ネフローゼ症候群注2)の病因遺伝子同定はこれまで非常に困難でしたが、今回、東北大学病院で診療中の兄弟症例のゲノム解析と海外の血族結婚家系の解析を組み合わせる事で、病因遺伝子群の同定が可能になりました。
同定した6つの新規病因遺伝子は、いずれもステロイドが関与する同一のシグナル伝達経路(図)の因子で、なぜステロイドがネフローゼ症候群に効くのかを理解する上で重要な知見を与えるものです。さらに、このシグナル伝達経路は一部のステロイド抵抗性ネフローゼ症候群注3の原因遺伝子を含み、病態の一部を共有していることが明らかになりました。今回の研究成果は、ネフローゼ症候群の病態解明やステロイドよりも疾患特異的な治療法の開発に貢献すると期待されます。
本研究成果は英国科学雑誌「Nature Communications」のオンライン版に2018年5月17日(現地時間)に掲載されました。
本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)による難治性疾患実用化研究事業未診断疾患イニシアチブ(IRUD)「未診断疾患に対する診断プログラムの開発に関する研究」、および「小児?周産期領域における難治性疾患の統合オミックス解析拠点形成」の支援を受けて行われました。
【用語説明】
注1. | ネフローゼ症候群:尿中にタンパク質が漏れ出てしまうために血液中のタンパク質が減り、体に浮腫が生じてしまう疾患。明らかな原因がわからないものを、一次ネフローゼ症候群と呼ぶ。国の指定難病の一つ。長期化すると腎機能が低下し透析が必要となる場合がある。 |
注2. | ステロイド感受性ネフローゼ症候群:ネフローゼ症候群のうち、ステロイド連日投与開始後4週間以内に完全寛解する(症状が治まる)もの。 |
注3. | ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群:ネフローゼ症候群のうち、ステロイドを4週間以上連日投与しても完全寛解しないもの。 |
図. 本研究で同定されたネフローゼ症候群の病因遺伝子群とその役割
これらのタンパクは相互に作用してRhoファミリー低分子量G蛋白質(RhoA, Rac, Cdc42)の活性調節系を担っている。赤地に黄色丸数字:本研究で同定された遺伝子変異。(Nature Communications(2018)論文 Figure 2より引用)
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科小児病態学分野
教授 呉 繁夫(くれ しげお)
電話番号: 022-717-7284
Eメール: kure*med.tohoku.ac.jp (*を@に置き換えてください)
(取材に関すること)
東北大学大学院医学系研究科?医学部広報室
電話番号: 022-717-7891
FAX番号: 022-717-8187
Eメール: pr-office*med.tohoku.ac.jp (*を@に置き換えてください)