2018年 | プレスリリース?研究成果
左心不全に伴う肺高血圧症の発症メカニズムを解明 ー新規の心不全治療薬候補の同定ー
【研究のポイント】
- 左心不全に伴う肺高血圧症は、心不全患者の予後(治療とその後の回復)に大きく影響するが、その発症メカニズムについては未だ不明な点が多い。
- Rho-kinase(注1)はの遺伝子破壊マウスを用いた解析により、左心不全に伴う肺高血圧症発症においてタンパク質サイクロフィリンA (CyPA(注2))が重要な役割を果たしていることを発見した。
- CyPAの発現を抑制する低分子化合物を探索し、心不全治療効果のあるセラストロールを同定した。
【研究概要】
東北大学大学院医学系研究科循環器内科学分野の下川宏明(しもかわ ひろあき)教授、佐藤公雄(さとう きみお)准教授、砂村慎一郎(すなむら しんいちろう)医師の研究グループは、左心不全に伴う肺高血圧症発症における分子メカニズムを解明しました。類似した2つのRho-kinase(ROCK1とROCK2)のそれぞれの遺伝子破壊マウス(ノックアウトマウス)を用いた解析により、心不全の進展において心筋細胞のROCK1とROCK2が異なる役割を担っていることを発見しました。また、Rho-kinaseの下流でCyPAが酸化ストレス(注3)を増幅することにより、左心不全に伴う肺高血圧症の発症に深く関わっていることを解明しました。さらに、CyPAを標的とした新規心不全治療薬の探索を行い、生薬の成分であるセラストロールを同定しました。
本研究は、心不全患者の予後に影響する重要な因子である肺高血圧症の分子メカニズムの解明した重要な報告です。また、心不全治療効果のある低分子化合物を同定したことから、今後、臨床応用につながることが期待されます。
本研究成果は、7月9日午後3時(米国東部時間、日本時間7月10日午前4時)に米国科学アカデミー(National Academy of Sciences, NAS)の学会誌であるProceedings of the National Academy of Sciences of the USA, PNAS 誌(電子版)に掲載されました。本研究は、文部科学省科学研究費補助金、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の難治性疾患実用化研究事業、及び日本学術振興会科学研究費助成金の支援を受けて行われました。
図1. 左心不全に伴う肺高血圧症
左心不全による左房圧の上昇が肺動脈系に持続して伝搬されることにより、肺動脈の収縮や肥厚(リモデリング)が引き起こされ、肺高血圧症に至ることが知られている。
【用語解説】
(注1)Rho-kinase
低分子量GTP結合タンパク質Rhoの標的タンパク質であり、収縮、増殖、遊走、遺伝子発現誘導など細胞の重要な生理機能に関与している。これまで多くのグループがRho-kinaseの活性亢進が様々な循環器疾患に深く関与していることを報告している。
(注2)CyPA
酸化ストレスによりRho-kinase依存性に細胞から分泌されるタンパク質。分泌された細胞外CyPAが酸化ストレスをさらに誘導することで、酸化ストレスの悪循環を形成することが知られている。
(注3)酸化ストレス
反応性の高い活性酸素により細胞が障害されている状態。
問い合わせ先
東北大学大学院医学系研究科循環器内科
教授 下川 宏明(しもかわ ひろあき)
電話番号: 022-717-7152
Eメール: shimo*cardio.med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
<報道担当>
東北大学大学院医学系研究科?医学部広報室
電話番号: 022-717-7891
FAX番号: 022-717-8187
Eメール: pr-office*med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)