2018年 | プレスリリース?研究成果
視神経障害のバイオマーカーを同定
【研究のポイント】
- 緑内障注1モデルマウス(視神経挫滅マウス注2)の網膜を用いてメタボローム解析注3を行った結果、緑内障の進行度に伴って変化する分子を同定した
- 網膜神経節の細胞死に先立って網膜内の核酸塩基注4が減少し、複数種のリン脂質注5が増加することを見出した
- 緑内障の進行度を予測するバイオマーカー注6としてL-アセチルカルニチン注7が有用である可能性を示した
【研究概要】
東北大学大学院医学系研究科 眼科学分野の中澤 徹(なかざわ とおる)教授、佐藤 孝太(さとう こうた)助教、東北大学東北メディカル?メガバンク機構の山本 雅之(やまもと まさゆき)教授、三枝 大輔(さいぐさ だいすけ)講師らのグループは、緑内障モデルの一つである視神経挫滅マウスを用い、網膜に含まれる代謝物のメタボローム解析を行いました。その結果、緑内障の進行度に伴って変化する生体内分子を同定し、これらの分子の量の特徴的なパターンを抽出することに成功しました。本研究によって明らかにされた、視神経障害を原因とした網膜神経節細胞死に関連する可能性の高い生体分子の機能を解析することによって、新たな緑内障治療における創薬あるいは医療技術が開発されると期待されます。さらに、網膜神経節細胞死を予測することで、疾患予防に役立つバイオマーカーの開発と、緑内障の臨床診断への応用も期待されます。本研究の成果は、2018年8月9日Scientific Reportsにオンライン版で掲載されました。
【用語説明】
注1. 緑内障:眼圧が上昇して視神経を圧迫し、視野欠損が出現?進行する疾患。ただし、日本の場合眼圧が正常範囲の正常眼圧緑内障が多い。
注2. 視神経挫滅マウス:視神経を機械的に圧迫した緑内障の病態モデルマウス。
注3. メタボローム解析:生体内に含まれる代謝物の集団の網羅的解析。生体で産生される分子のみに限らず、食品摂取、環境要因あるいは腸内細菌が産生する分子を含み、ヒトの表現型を理解するために重要な情報が得られる。本研究では、網羅的にメタボロームを検出することを目的として、質量分析計による解析を実施した。
注4. 核酸塩基:遺伝情報を担う核酸を構成する塩基成分。
注5. リン脂質:構造中にリン酸エステルを持つ脂質の総称。細胞膜の主要な構成成分である。
注6. バイオマーカー:疾患の発症や進行を反映する生体内分子。
注7. L-アセチルカルニチン:アミノ酸から生合成される誘導体であり、生体の脂質代謝に関与する。
図1.多変量解析(主成分分析、Score plot)の結果。コントロール(黒)、視神経挫滅2日後(赤)、視神経挫滅4日後(緑)および視神経挫滅7日後(青)の各群の特徴を示した分布が観察された。
図2. 階層クラスター解析の結果。コントロール群と各視神経挫滅群において有意に変動する代謝物を抽出し、特徴成分ごとに横に並べた)。
図3. 質量分析イメージングの結果。コントロール検体と視神経挫滅2日後検体の眼組織切片のH&E染色図と拡大図。代謝物の検出強度を示しており、ガングリオン細胞層(赤線囲い部)で変化が観察された。
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科眼科学分野
教授 中澤 徹(なかざわ とおる)
電話番号:022-717-7294
Eメール:ntoru*oph.med.tohoku.ac.jp (*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院医学系研究科?医学部広報室
電話番号:022-717-7891
FAX番号:022-717-8187
Eメール:pr-office*med.tohoku.ac.jp (*を@に置き換えてください)