2018年 | プレスリリース?研究成果
メタマテリアル微粒子による超高感度な分析技術を開発 生きた細胞や化学反応溶液の局所的な化学分析の実現に期待
【研究のポイント】
- 近赤外光を吸収して電磁場増強する金ナノ粒子シェルを持つサブミクロンサイズのメタマテリアル微粒子分散液「メタフルイド(メタマテリアル流体)」を実現。
- 電磁場増強作用により微粒子に吸着した分子のラマン散乱を超高感度に検出。
- メタマテリアル微粒子と磁性ナノ粒子とコンポジット化することで特定の部位に移動?集積させ、局所的かつ三次元的なラマン散乱分析が可能に。
【概要】
東北大学材料科学高等研究所の藪浩准教授(ジュニアPI)、平井裕太郎(東北大学大学院工学研究科大学院生?日本学術振興会特別研究員)、および北海道大学電子科学研究所松尾保孝教授のグループは、金ナノ粒子が配列したシェルを持ち、磁場により移動?集積可能なメタマテリアル注1微粒子の分散液、「メタフルイド」の開発に成功し、可視?近赤外光照射により生じる散乱光を増強する表面増強ラマン分光(Surface-enhanced Raman Spectroscopy: SERS)注2により、超高感度に物質を検出することに成功しました。
光の波長よりも小さいナノメートルサイズの構造を用いて、自然界の物質では実現できない光学特性を持たせた人工物質をメタマテリアルと呼びます。金属ナノ構造の形状や配列を制御して特定の波長の光を吸収させたり、そのエネルギーを利用して、表面に吸着した分子のSERSシグナルを増強させる試みがなされてきました。しかしながら従来の金属ナノ構造は半導体微細加工技術などを使用して、二次元平面上に作製されているため、二次元的な情報しか得ることができず、三次元的な分析を可能にするメタマテリアルを作るのは困難でした。
今回、研究グループはプラスに帯電し、中心部に磁性ナノ粒子を封入したポリマー微粒子に、マイナスに帯電した金ナノ粒子を静電的に吸着させることにより、金ナノ粒子が表面に密に配列したメタマテリアル微粒子を化学的に作製することに成功しました。得られた微粒子は水中に分散させることが可能であり、用いる金ナノ粒子のサイズを変えることにより、可視光?近赤外光を吸収し、吸着した分子のラマン散乱シグナルを著しく増強できることを見いだしました。さらに、磁性ナノ粒子が入っているため、磁石を用いることで特定の位置に移動?集積させることが可能であることを証明しました。
研究グループが開発したメタマテリアル微粒子分散液である「メタフルイド(メタマテリアル流体)注1」は、生体を透過する近赤外光で超高感度なラマン散乱分析が可能なことから、生きた細胞内部の特定の部位における化学分析や、化学反応を溶液中で三次元的かつ超高感度にその場分析するなどの応用が期待されます。
※画像、映像の有(微粒子の電子顕微鏡写真)、無
【用語解説】
注1)メタマテリアル、メタフルイド(メタマテリアル流体)
光の波長よりも十分小さな金属構造により、光の透過?反射?吸収?屈折を自在に制御する光学材料。通常の物質が示さない負の屈折率など、特徴的な光学特性を示し、透明マントの部材としても注目されている。共振型メタマテリアルは光と共振する共振器を金属の微細構造で実現するものであり、共振器一つをメタ原子、メタ原子を液体に分散した物をメタフルイドと呼ぶ。
注2)ラマン散乱分光、表面増強ラマン散乱分光(SERS)
入射光に対して散乱した光の成分には、入射光と異なる振動数を持つ物質の構造に特有の情報が含まれており、入射光と散乱光の振動数の差(ラマンシフト)を取ることでどのような構造が物質に含まれているか非破壊で分析することができる。1928年にラマンにより発見された。金属表面では金属表面の電場増強効果によりこのラマン散乱強度が増強されることから、表面増強ラマン散乱分光(Surface-enhanced Raman Spectroscopy: SERS)と呼ばれ、物質の高感度検出に用いられている。
問い合わせ先
<研究に関すること>
藪 浩
東北大学材料科学高等研究所
仙台市青葉区片平2丁目1?1
電話:022-217-5996
E-mail:hiroshi.yabu.d5*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
<報道に関すること>
東北大学材料科学高等研究所 広報?アウトリーチオフィス
電話:022-217-6146
E-mail:aimr-outreach*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)