2018年 | プレスリリース?研究成果
骨の再生に適した環境を作り出す移植用間葉系幹細胞の調整法 ?抗酸化物質 N-アセチルシステインの応用?
【発表のポイント】
- 抗酸化物質であるN-アセチル-L-システイン(NAC)は、間葉系幹細胞(MSC)*1におけるグルタチオンを増加させることで、細胞内の活性酸素の働き(酸化ストレス*2)を阻止することがわかりました。
- MSCをNACで数時間処理することで、酸化ストレスにより誘導される細胞死や老化を防げることがわかりました。
- NACで処理したMSCを骨の欠損部に移植すると、移植後の細胞死が起こり難くなり、広範囲にわたる骨の再生が可能になることがわかりました。
【概要】
東北大学大学院歯学研究科 分子?再生歯科補綴学分野の渡辺 隼(わたなべ じゅん)医員、山田将博(やまだまさひろ)准教授および江草 宏(えぐさ ひろし)教授らは、強力な抗酸化能をもつN-アセチルシステイン(NAC)を応用し、間葉系幹細胞(MSC)の酸化ストレスに対する抵抗性を増強させ、局所移植による骨再生を促す細胞調整技術の開発に成功しました。
本研究は、局所移植前のMSCをNACで処理することで、酸化ストレスに対する抵抗性が長時間強化されること、また、移植された細胞が細胞死や老化を回避し、大規模な骨欠損の再生を可能にすることを明らかにしました。
この成果により、細胞内酸化ストレスを制御したMSCを移植することで骨再生効果を高めるという新たな治療戦略の道筋を示しました。また、NACは気管支炎の治療薬や解毒剤としてすでに臨床応用されていることから、再生医療へのドラッグリポジショニング*3に適しており、今後は口腔領域以外の組織再生や免疫調節機能に着目したMSC移植への適応拡大が期待できます。本研究成果は、2018年9月4日Biomaterialsのオンライン版に掲載されました。
図1. NACによる酸化ストレス制御を施したMSC局所移植による骨再生の促進
【用語説明】
*1 間葉系幹細胞(かんようけいかんさいぼう):骨や血管、筋肉などの中胚葉性組織(間葉)に由来する体性幹細胞
*2 酸化ストレス:細胞内の活性酸素種と抗酸化物質/酵素とのバランスが崩れ、酸化反応により引き起こされる生体にとって有害な作用
*3 ドラッグリポジショニング:ある疾患に有効であることがわかっている既存の治療薬から、別の疾患に有効な薬効をみつけだすこと
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院歯学研究科
分子?再生歯科補綴学分野
准教授 山田将博(やまだまさひろ)
E-mail: masahiro.yamada.a2*tohoku.ac.jp (*を@に置き換えてください)
東北大学大学院歯学研究科
分子?再生歯科補綴学分野
教授 江草 宏(えぐさ ひろし)
E-mail: egu*tohoku.ac.jp (*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院歯学研究科
総務係
Tel:022-717-8244
E-mail:den-syom*grp.tohoku.ac.jp (*を@に置き換えてください)