2019年 | プレスリリース?研究成果
グラフェン構造を数学的観点から設計し、その優位性を電気化学イメージングにより初めて実証
【発表のポイント】
- 数学的な観点でグラフェン(注1)のエッジ構造を捉え、窒素およびリンを化学ドープ(注2)することで幾何学的歪みを意図的に作成することに成功しました。
- ナノ電気化学セル顕微鏡(注3)とDFT(density functional theory)計算(注4)などを駆使し、設計した構造と化学ドープの相乗効果により、水素発生反応(注5)が飛躍的に向上することを突き止めました。
- 貴金属を使わない安価な材料のみで構成された電極であっても、高効率に水素製造が可能であるという筋道を示すことができました。今後、再生可能エネルギーと水の電気分解を組み合わせることで、水素社会構築に向けたエネルギーキャリアである水素の基盤製造技術の研究開発の加速が期待されます。
【概要】
東北大学材料科学高等研究所(AIMR)/同大学院環境科学研究科の熊谷明哉准教授と大阪大学大学院基礎工学研究科の大戸達彦助教らは、筑波大学数理物質系の伊藤良一准教授を研究プロジェクトリーダーとして、炭素原子一層からなるグラフェンのエッジ構造に着目し、そのエッジ構造は数学的な観点から見ると幾何学的歪みが化学元素種の受け入れ先(ホスト)になりうることを見いだし、意図的に化学元素種の導入(以下、化学ドープという)を行いました。グラフェンのエッジ構造に意図的に窒素(N)とリン(P)を導入することにより、化学ドープしていないエッジ構造を持つグラフェンやエッジ構造を持たない化学ドープしたグラフェンよりも、化学ドープしたエッジ構造を持つグラフェンは水素発生能力が高いことが分かりました。その反応性は、DFT(density functional theory)計算によりピリジン型結合(図1化学式参照)を持つ窒素に由来していると予想され、最先端の電気化学顕微鏡技術を用いて実証しました。グラフェンのエッジに意図的に窒素とリンを化学ドープする技術の確立と、DFT計算による水素発生反応に関与するプロトンの吸着エネルギー結果を比較し、世界有数の高分解能を持つ最先端の電気化学顕微鏡技術により評価した結果、一般的に用いられる高価な貴金属である白金に迫るものであり、非金属元素の化学ドープとエッジ構造などの原子構造が、電極の反応性の向上に寄与するものであることを世界で初めて実証しました。これは、さらなる触媒活性の向上と、金属フリーで安価に水素を発生させる水素社会に向けた水素製造の基盤技術として期待できます。
今後、本研究を起点に、再生可能エネルギー電力と非金属のみで構成される電極を組み合わせることで、環境に負荷がかからない水素製造の創出技術に結び付くとともに、数学的観点を利用した材料の表面構造と化学ドープ状態の制御などが次世代物質の探索?設計?開発につながり、水素社会構築に向けた研究への礎となることが期待されます。本成果は2019年4月1日(英国時間)にWileyが発行する「Advanced Science (オープンアクセス)」誌のオンライン版で公開されました。
【説明図】
図1 化学ドープグラフェンエッジ構造の作製法の概略図。銅基板上にSiO2のナノ粒子を分散させ、CVD法によりグラフェンを成長させる。グラフェンは、ナノ粒子上では成長せず、その後、ナノ粒子と基板を除去することでグラフェンにナノ粒子の粒径の大きさが開いたグラフェンエッジを作製し、CVD法の導入ガスや成長温度を調整することでNPの化学ドープを行った。導入されたNPは挿入図の化学構造を持つピエリジン型を主に有する。
【用語解説】
注1) グラフェン:炭素原子がハチの巣状の六角形構造にて構成された二次元平面上に広がったシート状の材料であり、原子1個の厚さからなる。理想的な平面構造を持ち、通常のシートが重なった三次元構造と違い特異な機能性を示す。近年では、エネルギー材料への応用が期待されている。
注2) 化学ドープ:材料結晶内に異種元素を意図的に少量添加することをいう。その異種原子内の電子や正孔を利用し、添加濃度を調整することで、電子状態や物理的特性などを制御することが可能であり、半導体の分野で多く用いられる。
注3) ナノ電気化学セル顕微鏡:電解液と参照電極を挿入し、1マイクロメートル以下で開口したピペットを試料に近づけて微小液滴の電気化学セルを形成し、そのセルを介して電気化学反応を直接測定もしくは観察する技術。
注4) DFT計算:密度汎関数理論(density functional theory)の略称であり、さまざまな物質の物理的特性、特に電子密度を電子エネルギーから計算することが可能な理論を用いた計算手法。
注5) 水素発生反応:水の電気分解を用いた水素を製造する手法の一つ。化石燃料を使用せず、排気ガスを出さない。陽極と陰極に電気を流すと、陽極では酸素、陰極では水素が発生する。強酸性条件下において陰極には白金(約3800円/g)が用いられることが多い。
問い合わせ先
◆電気化学イメージに関すること
東北大学 材料科学高等研究所 准教授 熊谷明哉
電話 022-795-7281
◆報道に関すること
東北大学 材料科学高等研究所 広報?アウトリーチオフィス
電話 022-217-6146
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