2019年 | プレスリリース?研究成果
3次元放射光ナノイメージングとデータ科学の融合 -酸素吸蔵?放出材料における酸化反応の軌跡を可視化-
理化学研究所(理研)放射光科学研究センター可視化物質科学研究グループ構造可視化研究チームの高橋幸生チームリーダー(研究当時、現 東北大学多元物質科学研究所教授)、広瀬真研修生、同グループ元素可視化研究チームの唯美津木チームリーダー、石黒志特別研究員(以上研究当時)、北陸先端科学技術大学院大学ダム?ヒョウ?チ准教授、グェン?ズオン-グェン大学院生らの共同研究グループは、硬X線タイコグラフィ[1]とコンピュータトモグラフィ(CT)[2]を組み合わせ、材料試料の3次元空間分解X線吸収微細構造(XAFS)[3]を取得する「3次元硬X線スペクトロタイコグラフィ(3D-HXSP)法」を開発し、データ科学と連携した解析により、酸素吸蔵?放出材料[4]粒子内で起きる酸化反応の軌跡の可視化に成功しました。
本研究成果は今後、さまざまな先端機能性材料のナノ構造?化学状態分析に応用されるものと期待できます。
今回、共同研究グループは、2次元空間での試料の高空間分解能化学状態可視化技術である「タイコグラフィ-XAFS法」に、CTの手法を組み込んで3次元空間情報へと拡張した「3D-HXSP法」を新たに開発しました。大型放射光施設「SPring-8」[5]で測定を行ったところ、タイコグラフィの高空間分解能を維持したまま、セリウムを含む試料粒子の3次元空間分解XAFSスペクトルの取得と価数分布の3次元空間可視化に成功しました。さらに、この3次元価数情報を教師なし学習[6]と呼ばれるデータマイニング[6]と連携させることで、試料粒子内部での酸化反応を軌跡として可視化することにも成功しました。
本研究は、英国の科学雑誌『Communications Chemistry』のオンライン版(4月26日付け:日本時間4月26日)に掲載されました。
図 3D-HXSP計測とデータマイニングによる酸素吸蔵?放出材料粒子内の酸化反応軌跡の可視化
[1] X線タイコグラフィ
コヒーレントX線回折イメージング手法の一つ。X線照射領域が重なるように試料を二次元的に走査し、各走査点からのコヒーレント回折パターンを測定する。そして、回折パターンに位相回復計算を実行し、試料像を再構成する手法。
[2] コンピュータトモグラフィ(CT)
可視光、X線、電子線などが、対象を透過して出来る2次元の投影像をいろいろな方向から集め、その組から3次元構造を再構成する手法。対象の内部の構造が可視化できる。人体の断層写真の撮影など医療分野での利用も多い。CTは、Computed Tomographyの略。
[3] X線吸収微細構造(XAFS)
X線吸収スペクトルの吸収端付近に見られる固有の構造。XAFSの解析によって、X線吸収原子の電子状態やその周辺構造などの情報を得ることができる。XAFSは、X-ray Absorption Fine Structureの略。
[4] 酸素吸蔵?放出材料
条件によって酸素を吸蔵?放出する材料。自動車排ガス浄化などでは、系中の酸素量の制御が必須であり、用いられる。
[5] 大型放射光施設「SPring-8」
兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す施設で、その利用者支援は高輝度光科学研究センターが行っている。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8 GeVに由来。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げたときに発生する強力な電磁波のこと。SPring-8では、遠赤外から可視光線、軟X線を経て硬X線に至る幅広い波長域で放射光を得ることができるため、原子核の研究からナノテクノロジー、バイオテクノロジー、産業利用や科学捜査まで幅広い研究が行われている。
[6] 教師なし学習、データマイニング
データマイニングは、大量のデータから統計処理?パターン認識などを網羅的に駆使して知識を抽出する技術を指す。教師なし学習は機械学習?データマイニング手法のなかの一つの技法である。「教師あり学習」は、入力xと出力結果yが既知な多数の訓練データ{(xi,yi)}から関数関係y=f(x)を「学習」し、その関数を未知データxuに適用して結果yuを求める解析手法である。一方、教師なし学習は出力結果yが未知のまま、多数のデータ群{xi}から、その背後に存在する本質的な相関性を抽出する解析手法であり、未知の事象の存在を予測するのに力を発揮する。
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