2019年 | プレスリリース?研究成果
ミトコンドリアの働きの低下による筋細胞の崩壊メカニズムを解明(モデル生物線虫を用いた実験成果) ―加齢や疾患に伴う筋萎縮の予防に期待―
【発表のポイント】
- ミトコンドリアは、細胞内のエネルギー産生において中心的な役割を担う細胞小器官で、筋肉の活動や発達、維持においても不可欠である。一方で、加齢や疾患に伴い、その機能が低下すると筋肉の急速な萎縮が進行することが知られている。
- 今回、モデル生物を用いて、ミトコンドリアの働きが低下した際に、筋細胞内のカルシウム濃度が上昇し、その結果、筋細胞の外側で細胞間の接着や維持に重要な細胞外マトリックス*1のコラーゲン成分が分解され、最終的に筋の崩壊に至る経路を突き止めた。
- 今後、加齢や様々な疾患に伴う筋萎縮の予防や治療につながる可能性が示唆される。
【概要】
加齢や疾患に伴うミトコンドリアの障害により、筋の萎縮や崩壊が生じることは良く知られていましたが、その詳細なメカニズムについては解明されていませんでした。東北大学大学院生命科学研究科の東谷篤志教授らの研究グループは、英国ノッティンガム大学ならびにエクセター大学との共同研究により、モデル生物の1つである線虫を用いて、ミトコンドリア障害時に筋細胞内のカルシウム濃度が上昇し、その結果、筋細胞の外側で細胞間の接着や維持に重要な細胞外マトリックスのコラーゲン成分が分解され、最終的に筋の崩壊に至る経路を解明しました。さらに、カルシウムの過剰流入を抑えること、フーリン*2活性を抑えること、マトリックスメタロプロテアーゼ*3を抑えることなど、いずれかのステップを抑えることで、筋萎縮を抑制できることを証明しました。また、線虫の筋ジストロフィー疾患モデルにおいても、これらのいずれかのステップを抑えることで、筋疾患の進行を遅らせることができることも明らかになりました。
本研究成果は、米国実験生物学会連合誌FASEB Journalに6月4日付けでEarly onlineとして掲載されました。
【用語説明】
*1 細胞外マトリックス:細胞の外側に存在する物質で、主に、コラーゲンなどの成分からなり、細胞間をつなぎとめ細胞や組織を安定に保護する役割がある。
*2 フーリン:カルシウム依存的なエンドペプチダーゼの1つで、マトリックスメタロプロテアーゼなどの前駆体(不活性型酵素)の一部を切断し分解することで、活性型酵素に転換させる酵素。
*3 マトリックスメタロプロテアーゼ:主として、コラーゲンなどの細胞外マトリックスの分解に関わる酵素。
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科
担当:東谷 篤志(ひがしたに あつし)
電話番号:022-217-5715
Eメール:atsushi.higashitani.e7*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科広報室
担当:高橋 さやか(たかはし さやか)
電話番号:022-217-6193
Eメール:lifsci-pr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)