2019年 | プレスリリース?研究成果
遺伝性脊髄小脳失調症の発症機序解明に手掛かり
名古屋大学大学院医学系研究科分子細胞学分野の 辻 琢磨 助教(当時/現?順天堂大学特任助教)、藤本 豊士 名誉教授(現?順天堂大学特任教授)、大阪大学免疫学フロンティア研究センターの 長田 重一 栄誉教授、東北大学大学院生命科学研究科の 田口 友彦 教授らの研究ク?ルーフ?は、生体膜※1をつくる主要な脂質であるホスファチジルセリン(PS)※2を観察する新たな方法を開発し、遺伝性脊髄小脳変性症の原因遺伝子の一つであるタンパク質TMEM16Kが細胞内部の生体膜のPS分布を変化させる機能を持つことを明らかにしました。
細胞表面や細胞内小器官※3を作る生体膜は二層の膜脂質が形成する脂質二重層を基本構造としています。細胞表面を被う生体膜の脂質二重層は、細胞内に向いた層だけにPSがある非対称性を示します。長田教授らのこれまでの研究により、TMEM16Fが活性化することによってPSが細胞外に向いた層に移動し、生理的に重要な働きを持つことが明らかになっていました。一方、細胞内小器官の膜にはTMEM16Fと近縁のTMEM16K、 TMEM16Eなどが存在することが知られていますが、技術的な問題からこれらの分子の機能は不明でした。研究グループはPS分布を見るための新たな電子顕微鏡の解析方法を開発し、細胞内小器官の膜のPS分布をナノレベルで可視化することに成功しました。その結果、これまでPSがほとんど存在しないと考えられていた小胞体膜の細胞質側※4の層にPSが分布すること、細胞内のカルシウム濃度※5が上昇すると小胞体膜?細胞質側のPSが減少するとともに小胞体膜?内腔側(細胞質側と反対の層)や核膜のPSが増加すること、さらに、それらの変化がTMEM16Kが存在する場合にのみ起こることがわかりました。これらの結果はTMEM16Kの生理的機能を初めて明らかにしたものであり、小胞体膜や核膜でのPSの機能的意義の解明など、新たな研究の展開につながると期待されます。
本研究成果は、国際総合学術誌である「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」(米国東部時間2019年6月17?21日付の電子版)に掲載されました。
図1:今回開発した方法の概略図
【用語解説】
※1 生体膜:
脂質二重層を基本構造とし、細胞表面の形質膜や細胞内小器官を包む膜の総称。
※2 ホスファチジルセリン:
生体膜に存在する主要なリン脂質の一つ。マイナス電荷を持ち、プラス電荷をもつタンパク質を生体膜に引き寄せるなどの働きが知られている。
※3 細胞内小器官:
小胞体、ミトコンドリアなど、細胞内にある構造。
※4 小胞体膜の細胞質側:
細胞内にある小胞体を作る膜の細胞質に向いた側の脂質層。
※5 細胞内のカルシウム濃度:
様々なホルモンや薬物の刺激を受けると細胞内のカルシウム濃度が大きく上昇し、種々の現象を引き起こす引き金になる。
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科
教授 田口 友彦(たぐち ともひこ)
TEL: 022-217-6676
E-mail:tomohiko.taguchi.b8*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院 生命科学研究科広報室
TEL:022-217-6193
E-mail:lifsci-pr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)