2019年 | プレスリリース?研究成果
トポロジカル物質で超伝導ダイオードを実現 -トポロジカル超伝導体の電子状態解明に向けて-
理化学研究所(理研)創発物性科学研究センター強相関物性研究グループの安田憲司客員研究員(マサチューセッツ工科大学博士研究員)、十倉好紀グループディレクター(東京大学大学院工学系研究科教授)、強相関界面研究グループの川﨑雅司グループディレクター(東京大学大学院工学系研究科教授)、東北大学金属材料研究所の塚﨑敦教授らの共同研究グループは、トポロジカル絶縁体[1]の超伝導[2]界面において、超伝導電流の整流効果[3]を観測しました。
本研究成果は、トポロジカル超伝導体の電子状態の解明に貢献するほか、超伝導電流を効果的に制御する整流素子として活用できると期待できます。
トポロジカル絶縁体と超伝導体を接合したトポロジカル超伝導体[4]を用いることで、擾乱(じょうらん)に対して堅牢なトポロジカル量子計算[5]が可能になることが理論的に提案されており、現在盛んに研究が進められています。
今回、共同研究グループは、その電子状態を調べるため、トポロジカル絶縁体表面状態と超伝導が共存しているFeTe(Fe:鉄、Te:テルル)とBi2Te3(Bi:ビスマス、Te:テルル)の積層界面に着目しました。超伝導界面と平行(面内)に磁場を加えて抵抗を測定したところ、部分的に超伝導の発現した状態でのみ、電流の方向に依存して抵抗が変化する整流効果(ダイオード効果)が現れることが分かりました。詳細な測定と理論計算から、スピン運動量ロッキング[1]した表面状態の電子が特殊な超伝導状態を実現していることが明らかになりました。
本研究は、英国のオンライン科学雑誌『Nature Communications』(6月21日付け:日本時間6月21日)に掲載されました。
図 界面における超伝導と磁場下での超伝導電流の整流効果のイメージ
【補足解説】
[1] トポロジカル絶縁体、スピン運動量ロッキング
トポロジカル絶縁体は固体内部では電気を流さない絶縁体であるが、物質表面でのみ電気を流す金属として振る舞う。表面を流れる電子は、そのスピンの方向が運動方向に対して常に垂直の方向に向くというスピン運動量ロッキングと呼ばれる性質を持っており、通常の金属や半導体、絶縁体とは異なる興味深い種々の物性が現れる。電子状態を位相幾何学的に特徴づけたときに特徴的なトポロジカル数を持つことからトポロジカル絶縁体と呼ばれる。
[2] 超伝導
通常の導体と異なり、電気抵抗が0でエネルギー散逸なく電流が流れる状態。
[3] 整流効果
電流の方向によって、電流の流れやすさ(抵抗)が異なる効果のこと。最も代表的なものにp型半導体とn型半導体を接合したpn接合ダイオード素子があるが、近年では固体中の電子の相対論的効果を用いることで、磁場で制御可能な整流効果を生じることが明らかになっている。
[4] トポロジカル超伝導体
通常の超伝導体と異なるトポロジカル数を持つ超伝導体。トポロジカル絶縁体と超伝導体を接合することで実現できると考えられている。試料の端や位相欠陥にマヨラナ粒子と呼ばれる特殊な粒子が生じ、この粒子を操作することで擾乱に対して堅牢なトポロジカル量子計算が可能となることが理論的に提案されている。
[5] トポロジカル量子計算
量子力学的な重ね合わせ状態を用いることで、大規模な計算を高速に行うことができるコンピュータを量子コンピュータという。量子コンピュータの実現に向けた大きな課題の一つに、外界からの擾乱によって重ね合わせが失われるデコヒーレンスの問題がある。トポロジカル超伝導体に潜むマヨラナ粒子を制御することで、デコヒーレンスの起こりにくい、擾乱に対して堅牢なトポロジカル量子計算が実現できると期待されている。
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東北大学 金属材料研究所 情報企画室 広報班
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