2019年 | プレスリリース?研究成果
流動中の磁気スキルミオン格子の変形挙動観測に成功
【発表のポイント】
- カイラル磁性体MnSiで形成される磁気スキルミオンが、電流下の流動状態においても格子構造を保つことを確認した。
- 流動状態においては磁気スキルミオン格子が塑性変形することを観測した。
- 塑性変形の形状から試料端における摩擦力の存在が示唆される。
- 本研究で解明された磁気スキルミオンの電流下の流動挙動は磁気スキルミオンを用いた省エネルギーデバイス実現に貢献するものと期待される。
【概要】
東北大学多元物質科学研究所の奥山大輔助教、佐藤卓教授、アメリカ国立標準技術研究所(NIST)のBleuel Markus研究員、スイスパウル?シェラー研究所(PSI)のWhite Jonathan研究員、スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)のRonnow Henrik准教授、理化学研究所創発物性科学研究センターの田口康二郎グループディレクター、十倉好紀センター長、東京大学の永長直人教授、東北大学金属材料研究所の南部雄亮准教授の研究グループは、カイラル磁性体*1 MnSiに形成される磁気スキルミオンの電流下の流動挙動を中性子小角散乱*2によって詳細に調べました。その結果、磁気スキルミオンは駆動中も格子構造を保つこと、さらに試料端付近に生じる摩擦力的な機構により塑性変形*3を起こすことが観測されました。今回解明された電流下の流動挙動は従来の予想とは本質的に異なるものであり、磁気スキルミオンを用いた省エネルギー情報伝達デバイス実現のために重要な情報であると考えられます。
本研究成果は、2019年7月11日(日本時間18時)「Communications Physics」オンライン版に掲載される予定です。
図1:中性子小角散乱で観測された磁気スキルミオンからの磁気回折線。磁気スキルミオンが形成する三角格子を反映し、6回対称の反射が観測されている。(a) 試料全体に中性子ビーム照射時に観測される磁気スキルミオン反射。(b) 閾電流密度以上の電流印加時に観測される磁気スキルミオン反射。(c, e) 電流印加前の試料の左端(c)と右端(e)に中性子ビーム照射時に観測される磁気スキルミオン反射。 (a)と同様な反射が観測されている。(d, f) 閾電流密度以上の電流印加時に観測される磁気スキルミオン反射。白点線は電流印加前の磁気スキルミオン反射の位置を示している。右端では時計回り、左端では反時計回りに磁気スキルミオン反射の回転が観測されている。(g) 実験配置の概念図及び中性子ビームの照射位置の説明。
【用語説明】
*1カイラル磁性体
系の磁性を担う原子が結晶内で鏡映と反転の対称操作を含まない磁性体を指す。螺旋磁気秩序構造をとることがあり、その場合は結晶の対称性を反映して、螺旋の巻き方向(ヘリシティ)が揃う場合がある。磁気スキルミオンは、平面内の3つの方向に伝播するヘリシティが揃った螺旋磁気構造の重ね合わせで説明される。
*2中性子小角散乱
中性子散乱とは、原子炉で作られた中性子を物質に入射し、散乱される中性子を観測することで物質内部の結晶/磁気構造やそれらの励起の情報を得る手法である。特に散乱角の小さい領域を測定する手法を小角散乱と呼び、数nmから数百nm程度の構造の情報を得ることに特化されている。
*3塑性変形
結晶構造や磁気構造などの周期的構造を形成する系では、周期的構造が途切れ、新しい周期構造が形成される場合がある。周期的な構造が続いている領域をドメインと呼び、ドメインとドメインの間の乱れた領域を転位と呼んでいる。物体に剪断力が加わりその物体の降伏点を超えた時、ドメイン間を転位が滑りながら移動することで変形することを塑性変形という。一度降伏点を越えると剪断力が消えても変形は消えないことが特徴である。
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E-mail:okudaisu*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
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E-mail:taku*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
【報道関連】
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