2019年 | プレスリリース?研究成果
耐摩耗性と耐食性を両立した鉄鋼材料を開発 ―需要が拡大するスーパーエンプラの射出成形をはじめ、幅広い応用が期待―
【発表のポイント】
- 高硬度?高耐摩耗性かつ耐食性に優れた鉄鋼材料;炭化物強化マルテンサイト鋼※1の開発に成功
- 炭化物強化マルテンサイト鋼の弱点であった耐食性を銅の微量添加により克服
- 本開発合金を用いたスーパーエンジニアリングプラスチックの製造装置部材において既存材の2倍以上の耐久性を実証、化学?エネルギー分野における幅広い応用にも期待
【概要】
東北大学金属材料研究所の山中謙太准教授、張宸大学院生(大学院工学研究科材料システム工学専攻博士課程後期3年の課程)、卞華康助教、千葉晶彦教授は、高硬度?高耐摩耗性かつ優れた耐食性を有する鉄鋼材料の開発に成功しました。
高速度鋼(ハイス鋼)に代表される炭化物強化マルテンサイト鋼は高硬度かつ耐摩耗性に優れるため、金型や工具等に幅広く用いられています。しかしながら、材料中に形成する炭化物により耐食性が低下するため、トレードオフの関係にある「硬度?耐摩耗性」と「耐食性」を両立した新材料やその材料設計の確立が強く求められていました。
本研究グループでは、近年需要が拡大しているスーパーエンジニアリングプラスチック(スーパーエンプラ)の製造方法の1つ:射出成形※2の製造装置部材に応用できる鉄鋼材料の開発を目指し、炭化物強化マルテンサイト鋼の耐食性改善について研究を行ってきました。その結果、微量の銅(Cu)を添加することにより当該材料の耐食性が著しく向上することを見出し、高硬度と高耐食性が両立した新材料の開発に成功、また、耐食性が向上するメカニズムも明らかにしました。
さらに、株式会社エイワおよび岩手大学との共同研究として量産用の溶解炉?加工設備を用いた開発合金の試作と射出成形の実機試験を行いました。その結果、スーパーエンプラの中でも大きな市場規模を有するガラスフィラー(GF)を含むポリフェニレンサルファイド(GF-PPS)樹脂※3の射出成形において、開発合金を用いたスクリューが既存のスクリュー素材に比べて2倍以上の耐久性を有することを実証しました。
以上は、耐食性と耐摩耗性を兼ね備えた鉄鋼材料の新たな材料設計指針として有用な知見であり、射出成形機部材だけでなく、化学?エネルギー分野において幅広い応用が期待されます。
本研究成果は、科学技術振興機構(JST)研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)「ステージⅡ(シーズ育成タイプ)」「GF-PPS樹脂成形用部品に適合した高耐食?耐摩耗新合金開発」を通して得られた成果であり、2019年8月27日(英国時間10:00)にnatureのパートナージャーナルであるnpj Materials Degradation誌にオンライン掲載されました。
写真:開発合金を用いて試作した射出成形用スクリュー
【専門用語解説(注釈や補足説明など)】
※1 炭化物強化マルテンサイト鋼
高温で安定なオーステナイト相を急冷(焼入れ)することにより形成する硬質なマルテンサイト相に微細な炭化物を分散させることでさらに強化した鉄鋼材料。高硬度かつ耐摩耗性に優れることから金型や切削工具等に用いられており、同様の組織を有する鉄鋼材料の代表例としては高速度鋼(ハイス鋼)が挙げられます。
※2 射出成形
加熱溶融した材料を金型内に射出注入し、冷却?固化することにより成形品を製造する方法。複雑形状の製品を大量生産するのに適していることから、樹脂成形加工に幅広く用いられています。ホッパーから導入された樹脂はスクリューの回転によりシリンダー内を運搬されます。この際ヒーターにより可塑化溶融され、最終的にキャビティ内に充填されます。
※3 PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂
ベンゼン環と硫黄からなる化学構造を持つ結晶性の耐熱性ポリマーです。ガラス繊維や無機質フィラーを40%程度まで添加することにより優れた機械的性質を示し、自動車の燃費向上に必須の車体軽量化を目的に自動車部品への採用が進んでいます。また、優れた耐薬品性と寸法安定性を示すため、電装部品にも使用されています。
問い合わせ先
(研究内容に関して)
東北大学金属材料研究所
加工プロセス工学研究部門
准教授 山中 謙太
TEL:022-215-2118 FAX:022-215-2116
Email:k_yamanaka*imr.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関して)
東北大学金属材料研究所
情報企画室広報班(冨松)
TEL:022-215-2144 FAX:022-215-2482
Email:pro-adm*imr.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)