2019年 | プレスリリース?研究成果
3次元量子ドット構造の形成実現によるInGaAsナノ円盤構造を世界で初めて観察 -バイオテンプレート極限加工により次世代量子ドットマイクロLEDの実用化に道-
【研究概要】
東京大学大規模集積システム設計教育研究センター(VDEC)の肥後昭男特任講師、北見工業大学の木場隆之助教、北海道大学大学院情報科学研究院の村山明宏教授、東北大学材料科学高等研究所(AIMR)および流体科学研究所(IFS)の寒川誠二教授、東京大学先端科学技術研究センターの杉山正和教授、東京大学大学院工学系研究科の中野義昭教授らは、バイオテンプレート技術と融合して低欠陥のナノサイズの低濃度のインジウムガリウム砒素/ガリウム砒素(InGaAs/GaAs)円盤構造(量子ドット)注1)を有する柱状構造(ナノピラー構造)を作製することに成功しました。さらに、有機金属気相成長法を用いて、ナノサイズのInGaAs/GaAs円盤構造を有するナノピラーをガリウム砒素での埋め込み再成長に成功し、ドライエッチングで作製した世界最小のInGaAsナノ円盤構造の作製に成功しました。フォトルミネッセンスの温度依存性測定により、ドライエッチングで作製したInGaAsナノ円盤構造からの波長幅の広い発光を実現しました。
ガリウム砒素などの化合物半導体はシリコンに比べて光の発光効率や吸光効率が極めて高く、特に化合物半導体量子ドットは、ナノスケールの構造から生じる量子効果によって、より単色化され高強度な光を低消費電力で温度の影響少なく発光するため、単一光子光源などに応用が期待されています。有機金属気相成長法または分子線エピタキシー法で作成される従来の量子ドットは高いインジウム濃度(50%以上)でのみ量子ドットが形成できます。また、従来のドライエッチングでは、微細化に限界があるばかりではなく、脆弱な化合物半導体では激しく欠陥が生成されるため、発光効率が大きく劣化してしまうという問題点がありました。
本研究グループは、鉄などの金属微粒子を内包したたんぱく質が、特殊な処理をした表面に自発的に規則正しく配列した構造を作る性質を用いて、金属微粒子を化合物基板の上に高密度に間隔20nm程度で配置しました。その後、たんぱく質だけを除去して金属微粒子を加工マスクとして中性粒子ビーム注2)による低損傷エッチングと有機金属気相成長を行うことにより、ナノメートルオーダの欠陥の少ないInGaAs/GaAsナノ円盤構造が20 nm(ナノメートル)間隔で配列した構造を実現しました。
本研究により作製された低欠陥のInGaAs/GaAsナノ円盤構造は、近年、注目をあげている低消費電力マイクロLEDや半導体レーザへの展開が期待できます。本研究成果は、ACS Applied Electronic Materialsに掲載されました。
図1 バイオテンプレートと中性粒子ビームを用いた量子ドット作製技術
【用語解説】
注1)ナノ円盤構造(量子ドット)
主に半導体において、電子の持つド?ブロイ波長(数nm~20nm)程度の大きさの粒状の構造を作ると、電子はその領域に閉じこめられる。閉じ込め方向を1次元にしたものを量子井戸構造、2次元のものを量子細線、そして3次元全ての方向から閉じ込めたものを、ナノ円盤構造(量子ドット)と呼ぶ。量子ドットは、その特異な電気的性質により、単電子トランジスタ、量子テレポーテーション、量子コンピューターなどへの応用が期待されている。また、大きさを変えることでバンドギャップエネルギーが制御でき、光の吸収や発光の波長を変化させることができるため、量子ドット太陽電池や量子ドットレーザへの応用も期待されている。これらを実現するためには大きさのそろった量子ドットを作製する必要があり、本研究ではバイオテンプレート法を用いたナノ円盤構造を提案している。
注2)中性粒子ビーム
寒川教授が世界で初めて開発したエッチング技術であり、プラズマからの高エネルギーイオン?紫外線照射を大幅に抑制することで、様々な材料の超低損傷エッチングに実績を持つ。
問い合わせ先
(研究内容について)
東北大学 材料科学高等研究所?流体科学研究所
教授 寒川誠二
Tel: 022-217-5240
(報道担当)
東北大学 材料科学高等研究所
広報?アウトリーチオフィス
Tel:022-217-6146
E-mail:aimr-outreach*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)