2019年 | プレスリリース?研究成果
水素や炭素などのありふれた原子からなる有機化合物を使った新しいスピン流生成機構を発見
【発表のポイント】
- 省エネルギー電子機器実現のため、発熱によるエネルギー損失の少ないスピン流が注目されている
- しかし、従来のスピン流生成機構には、希少な重金属が必要なほか原理的問題点があった
- 研究グループは、水素や炭素などのありふれた原子からなる有機化合物を使った生成機構を発見
【概要】
早稲田大学高等研究所の中 惇(なか まこと)講師は、北海道大学、明治大学、東北大学金属材料研究所、東京大学、理化学研究所と共同で、これまでプラチナ(Pt)などの希少な重金属を用いて生成されてきたスピン流(※1)を、水素や炭素、酸素などのありふれた元素からなる有機化合物を用いて高い効率で生み出す新しい機構を理論的に発見しました。これはスピントロニクス(※2)材料研究の裾野を大きく広げ、電子機器への応用を進める画期的な成果です。
電子は電荷を持つと同時に小さな磁石としての性質(スピン)を持っています。現代社会を支える電子機器のほとんどは、電荷の流れである電流を用いて動作していますが、もしもこれをスピンの流れ(スピン流)に置き換えることができれば、発熱によるエネルギー損失のない究極の省エネルギー機器が実現できます。
本研究では、有機化合物の分子の配向パターンに注目し、新しい機構を発見しました。理論計算から、この機構によるスピン流への変換効率は、Ptを用いた従来の生成機構と匹敵することが明らかになっています。今後、本研究で構築した理論をさらに多様な物質へと応用することで、高効率なスピン流生成を可能とする物質を理論的に見出し、理論の実証を目指します。
本研究では、有機化合物の分子の配向パターンに注目し、新しい機構を発見しました。理論計算から、この機構によるスピン流への変換効率は、Ptを用いた従来の生成機構と匹敵することが明らかになっています。今後、本研究で構築した理論をさらに多様な物質へと応用することで、高効率なスピン流生成を可能とする物質を理論的に見出し、理論の実証を目指します。
本研究成果は、『Nature Communications』に2019年9月20日午前10時(現地時間)に掲載されました。
【用語解説】
※1 スピン流
電荷の流れを伴わない純粋なスピンの流れ(「純スピン流」とも呼ばれる)。上向きスピンと下向きスピンを持つ電子の流れをそれぞれJ↑、J↓と定義すると、電流はこれらの和でI = J↑+J↓と表されるのに対して、スピン流は差でIspin = J↑-J↓となる。J↑= - J↓の場合、電流はゼロとなってスピン流だけが残るため、スピン流を情報を運ぶ担体として活用できれば、省エネルギーデバイスが実現できる。
※2 スピントロニクス
スピンとエレクトロニクスという二つの単語を合わせた造語で、電子のスピンをトランジスタなどの電子デバイスに応用することを目指す工学と、それを支える基礎物理からなる複合分野。1980年代に発見され、2007年のノーベル物理学賞に輝いた巨大磁気抵抗効果(磁場によって生じる物質の電気抵抗の急激な変化)とそのハードディスクへの応用によって大きく発展し、近年ではスピン流を中心とした研究が盛んに行われている。
問い合わせ先
東北大学金属材料研究所情報企画室広報班
Tel:022-215-2144
E-mail:pro-adm*imr.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)