2019年 | プレスリリース?研究成果
高耐久性ダイヤモンドライクカーボンの設計指針を提案 ―スーパーコンピュータ「MASAMUNE-IMR」による成果―
【発表のポイント】
- 宇宙ステーションや航空機エンジンなどの機械システムへの応用が期待されるダイヤモンドライクカーボンの摩耗メカニズムを明らかにした。
- 本成果は1秒間に3000兆回の高速計算が可能な東北大学金属材料研究所のスーパーコンピュータ「MASAMUNE-IMR」※1の活用によるもの。
- 成分や周囲環境を制御することで「摩耗を減らす」ことが可能、これにより高耐久性ダイヤモンドライクカーボンの設計指針が示された。
【概要】
ダイヤモンドライクカーボンはダイヤモンドに似た超低摩擦(物質同士がこすれあう時に極めて抵抗が小さい)材料であり、宇宙ステーションや航空機エンジン等の機械システムへの応用が期待されています。しかし、ダイヤモンドライクカーボンの「摩耗(物質がすり減ること)」は、材料の寿命の低下のみならず、機械の故障、さらには予期せぬ事故を引き起こします。そのため安全?安心社会の実現に向けて、より摩耗しにくいダイヤモンドライクカーボンの開発が重要課題となっています。
今回、東北大学金属材料研究所の久保百司教授、王楊助教(現:東北大学大学院工学研究科)、東北大学大学院工学研究科の足立幸志教授、岩手大学の森誠之教授、およびフランスEcole Centrale de LyonのJean Michel Martin教授らのグループは、東北大学金属材料研究所に2018年8月に導入されたスーパーコンピュータ「MASAMUNE-IMR」を活用し、ダイヤモンドライクカーボンの摩耗を誘発する原因となるトライボエミッション現象※2のメカニズムを世界で初めて明らかにしました。さらに、ダイヤモンドライクカーボンの成分や周囲の環境を制御することで摩耗を減らすことが可能であることを示し、高耐久性ダイヤモンドライクカーボンの設計指針を明らかにしました。これは機械システムの長寿命化に加え、故障?事故の防止に貢献しうる成果です。
この成果は、令和元年11月15日にScience Advancesに掲載されました。
【専門用語解説(注釈や補足説明など)】
※1 スーパーコンピュータ「MASAMUNE-IMR」
スーパーコンピュータとは、演算処理装置であるCPUを大量に備えたコンピュータを意味し、これら大量のCPUが並列的に計算処理を行うことで、極めて高速な計算を可能とします。「MASAMUNE-IMR」は、2018年8月に東北大学金属材料研究所に新しく導入されたスーパーコンピュータの愛称であり、正式名称である"MAterials science Supercomputing system for Advanced MUlti-scale simulations towards NExt-generation - Institute for Materials Research"の頭文字をとったものです。MASAMUNE-IMRは、合計で11,592個のCPUコアと1,484,800個のGPUコア(画像処理装置)を有することで、一秒間に3000兆回の高速計算が可能です。
※2 トライボエミッション現象
「トライボロジー」とは、摩擦、摩耗、潤滑などを対象とする学問であり、機械の設計には欠かせない技術です。一方、「エミッション」は気体分子などが放出されることを意味します。よって、「トライボエミッション」とは、摩擦の接触面で生じる高い圧力と温度によって、「摩擦した接触面から分子などが蒸発?放出される」現象を表します。これまで、このトライボエミッションは一つの単なる現象として認識されてきたが、トライボエミッションがどのように材料の摩耗に関わるのかは全く理解されていませんでした。本研究により、ダイヤモンドライクカーボンを摩擦した時に、メタン、エタン、エチレンなどの気体分子が接触面から蒸発するトライボエミッション現象が、摩耗を誘発する原因であることを世界的に初めて明らかにしました。つまり、トライボエミッションは、機械システムの故障や事故に大きく関わっている現象であることを明らかにしました。
問い合わせ先
(研究内容に関して)
東北大学金属材料研究所
久保 百司
TEL:022-215-2050
Email:momoji*imr.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関して)
東北大学金属材料研究所 情報企画室広報班
冨松 美沙
TEL:022-215-2144 FAX:022-215-2482
E-mail:pro-adm*imr.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)