2019年 | プレスリリース?研究成果
需要?供給?人口動態の視点から、家庭における炭素利用の変化要因を解明: 消費された木材?紙?プラスチックは、1210万トン分の二酸化炭素貯留に匹敵
長崎大学総合生産科学域 (環境科学領域) の重富陽介准教授、東北大学の大野肇助教、福島康裕准教授、九州大学のAndrew Chapman准教授、藤井秀道准教授、国立環境研究所の南齋規介室長による共同研究グループは、日用消耗品や家財 (以下、商品) (ただし小売店等で配布されるビニール袋等の包装類は除く) が日本の消費者の手に渡るまでに間接的に排出された二酸化炭素 (以下、間接CO2) と、プラスチック樹脂や木材を原材料とする商品に含有されている炭素量 (以下、商品中炭素) の構造について解析を行いました (図1)。特に商品中炭素は、廃棄段階で燃焼すると二酸化炭素として排出されますが、それにはエネルギー回収を目的とする「サーマルリサイクル」を行ったとしても排出されてしまう二酸化炭素も含まれています。しかし、商品中炭素の経年変化の要因は学術的に見過ごされてきました。
1990年から2005年の間接CO2と商品中炭素の変化量を解析した結果、間接CO2については1995年、商品中炭素については2000年をピークに減少傾向にあり、家計の消費構造や商品の販路構成 (サプライチェーン) の変化がこれらの減少に貢献していたことが明らかになりました。一方で、対象期間内の需要の拡大や商品の生産構造の変化、および少子高齢化に伴う世帯増は、間接CO2と商品中炭素の両方を増加させていました。特に、食品や通信機器における商品中炭素には、その傾向が顕著に見られました。
また、家計で消費された商品のうち廃棄物となる可能性のあるものに含まれる商品中炭素は、二酸化炭素量にして1210万トンに上ることが明らかとなりました。この量は日本政府がパリ協定に沿って家庭部門に求めている目標削減量の2割に相当します。この中で、今日、消費者に馴染み深い4つのリサイクル法 (包装容器リサイクル法?自動車リサイクル法?家電リサイクル法?小型家電リサイクル法) に基づいて回収される商品には、660万トンの二酸化炭素相当量が含まれます。一方で、残りの550万トンは上記のリサイクル法の対象でない衣類や医薬品に用いられる容器、その他のプラスチック製品に含まれており、法の管理の外にある商品中炭素の量が管理下にあるそれと同程度存在することを見出しました。しかし、リサイクル法により回収されても、廃棄物の処理方法によっては商品中炭素が二酸化炭素として排出されます。温室効果ガス削減目標の達成には、余分な二酸化炭素を出すことなく商品中またはリサイクルされる素材に炭素を留める技術の進展とともに、一人一人の行動と、政策的支援も重要となります。
今年6月末のG20大阪サミットでは、海洋プラスチックごみの削減が国際的に合意されています。本研究は、海洋プラスチックごみの要因となる廃プラスチック問題を、気候変動の視点から考察した研究とも言えます。生活の中で見過ごされがちな、商品中炭素という削減可能な二酸化炭素排出の見える化を通じ、気候変動とプラスチック廃棄物の二つの国際的課題を同時に取り組むための多様な活動に本成果が活用されることが期待されます。
本研究成果は、国際誌Environmental Science & Technologyへの掲載が決定しました。また、研究の概念図が雑誌の掲載号のカバー(図2) を飾ることが予定されています。
図1:本研究が明らかにした家計消費由来の間接CO2と商品中炭素の概要図
図2:Environmental Science & Technology誌におけるカバーデザイン
問い合わせ先
東北大学大学院工学研究科 化学工学専攻
助教 大野 肇
TEL: 022-795-5869
E-mail:h.ohno*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)