本文へ
ここから本文です

トランス脂肪酸による新たな毒性メカニズムの解明 -動脈硬化症などのトランス脂肪酸関連疾患の発症機序解明に繋がる発見-

【発表のポイント】

  • トランス脂肪酸が、紫外線や薬剤(抗がん剤など)によって引き起こされるDNA損傷(注1)時に、自発的な細胞死(アポトーシス)(注2)を促進する作用と仕組みを同定
  • トランス脂肪酸は、DNA損傷時のストレス応答性MAPキナーゼ(注3)であるJNKの活性化およびミトコンドリアにおける活性酸素(注4)産生を協調的に増強することで、細胞死の誘導を促進する
  • 本研究成果は、DNA損傷が病態に密接に関与する、動脈硬化症をはじめとしたトランス脂肪酸関連疾患の発症機序の解明や新規予防?治療戦略の開発に繋がる

【概要】

東北大学大学院薬学研究科の平田祐介助教、松沢厚教授らの研究グループは、動脈硬化症や生活習慣病などの様々な疾患のリスクファクターとされているトランス脂肪酸が、紫外線や薬剤(抗がん剤など)によって引き起こされるDNA損傷時に、自発的な細胞死(アポトーシス)を促進する作用を有することを見出し、その仕組みを解明しました。

詳細な解析から、トランス脂肪酸は、DNA損傷時のストレス応答性MAPキナーゼであるJNKの活性化およびミトコンドリアにおける活性酸素産生を協調的に増強することで、細胞死の誘導を促進することが明らかになりました。

DNA損傷に伴って誘導される細胞死は、動脈硬化症をはじめとした様々な疾患の病態悪化に寄与していることから、本研究で明らかにしたトランス脂肪酸による細胞死促進作用とその分子機構は、関連疾患の発症機序の解明や、新規予防?治療戦略の開発に繋がる基礎的知見として、重要な位置付けとなる研究成果です。

本研究の成果は、2月17日午前10時(英国標準時間)に英国科学雑誌Scientific Reportsに掲載されました。

図: トランス脂肪酸によるDNA損傷時の細胞死促進作用の分子機構
DNA損傷に伴って活性化したJNKは、ミトコンドリア外膜上のJNKアダプター分子Sabにリクルートされると、ミトコンドリア呼吸鎖複合体の活性低下を引き起こし、活性酸素を発生させる。エライジン酸などのトランス脂肪酸は、この時の活性酸素産生を促進することで、その下流でJNK/p38活性化を増強し、細胞死を促進する。このようなトランス脂肪酸によるDNA損傷時の細胞死促進作用が、循環器系疾患などの関連疾患発症に寄与していると考えられる。

【用語解説】

注1)DNA損傷
紫外線や活性酸素などの細胞内外からのストレスによって、DNAが修飾や切断を受けて障害され、正常な状態を維持できなくなること。

注2)アポトーシス
細胞は、ストレスなどの様々な要因によって、能動的あるいは受動的に死に至る。アポトーシスはその中でも、プログラムされた分子機構によって自発的に細胞死を誘導する現象であり、個体発生期の余計な細胞の除去や、細胞がん化の抑制など、様々な重要な役割を担っていることが知られている。

注3)MAPキナーゼ(Mitogen-activated protein kinase)
基質にアデノシン三リン酸(ATP)の末端リン酸基を導入する反応(リン酸化)を触媒する酵素で、細胞内の情報(シグナル)を伝達する重要な働きを持つ。英語名称Mitogen-activated protein kinaseは「細胞分裂促進因子活性化プロテインキナーゼ」の略で、細胞分裂促進因子で処理した細胞が増殖する際に活性化するキナーゼとしてERK (Extracellular signal-regulated kinase)が同定された経緯から、このような名前が付けられた。狭義にはERK1/2のみを指すが、広義には、様々なストレスに応答して活性化するJNK(c-Jun N-terminal kinase)やp38も含まれ、これらはストレス応答性MAPキナーゼと呼ばれる。細胞内情報(シグナル)伝達において中心的役割を果たし、シグナル伝達を実行するキナーゼである。

注4)活性酸素
ミトコンドリア呼吸の副産物として、あるいはNADPHオキシダーゼなどの酵素的な働きによって、細胞内に生じる反応性の高い酸素分子種の総称。細胞内外からの様々なストレスに曝されることで、さらに産生が亢進することが知られている。DNAやタンパク質などを酸化し、機能障害を引き起こすことで、様々な疾患や老化の原因となる。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

問い合わせ先
東北大学大学院薬学研究科 担当 松沢厚
電話 022-795-6827
E-mail:atsushi.matsuzawa.c6*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

このページの先頭へ