2020年 | プレスリリース?研究成果
「鉄を守る錆」誕生の観察に成功 従来の1000倍高速の放射光計測が、錆の形成過程を解き明かす
【発表のポイント】
- 化学反応の時間発展を実時間計測。
- 鉄の不動態化の初期過程を、最新の放射光技術と解析技術で観測。
- 赤錆を食い止める黒錆が形成される過程を解明。黒錆の膜が形成される初期は欠陥が多いが、後からその欠陥が埋められる。
【概要】
東北大学大学院理学研究科 若林裕助教授(東京工業大学特定教授)の研究グループは、これまで明らかにされていなかった鉄の不動態被膜形成初期過程を、高速X線反射率測定(注)によって解明しました。X線反射率法は表面分析に広く用いられる手法ですが、数分から数十分の時間がかかります。これを、情報科学も活用することで20ミリ秒まで高速化し、被膜形成過程の実時間観測を実現しました。観測された酸化の初期過程は、最初に欠陥の多い厚い膜を形成し、次に膜内部の原子配列を整える順番で起こっていました。膜成長の速度を決める因子が最初の1秒と後の時間で異なることも判明しました。この知見は固液界面での典型的な化学反応の理解を、従来とは異なる角度で深めるものです。今後、物理的な理解が難しい固液界面の化学反応に関する研究に新しい情報が加わる事が期待されます。
図:(左)20ミリ秒の露光時間で撮影したX線反射率と、ベイズ推定によるフィット。横軸は反射角、縦軸は散乱X線の強度。(右)得られた界面付近の電子密度。横軸は鉄表面からの距離。
【用語解説】
(注)高速X線反射率測定
通常のX線反射率測定では装置が機械的に動く必要があるため、どれほど強いX線を用いても数分以上の時間が必要であった。表面の実時間観測のために機械的な動作なしに反射率を測定できる手法が何種類か提案されており、これらの手法では用いるX線の強度を増やす事で高速測定が可能になる。今回はさらに、弱い信号からも情報を取り出せるように解析法にベイズ推定を用いた。
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院理学研究科物理学専攻
教授 若林 裕助(わかばやし ゆうすけ)
電話:022-795-7750
E-mail:wakabayashi*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院理学研究科
広報?アウトリーチ支援室
電話:022-795-6708
E-mail:sci-pr*mail.sci.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)