2020年 | プレスリリース?研究成果
コバルトと酸化マグネシウムからなるグラニュラー材料で熱電変換効率が変化 熱電変換デバイスの高効率化実現へ道筋
【発表のポイント】
- コバルト薄膜に酸化マグネシウムの粒子を分散させただけで、熱電変換効率の大幅な増加が可能になることを新発見した。
- 本研究により身のまわりにあふれた元素の組み合わせを用いた同じグラニュラー構造で同様の特性を持つ材料が作れることが示唆された。
- 磁石を用いた熱電変換デバイスの開発に応用することで、熱電変換効率を自在にかつ効率よく制御することが可能になる。
【概要】
東北大学金属材料研究所水口将輝准教授研究グループは、高知工科大学藤田武志教授らグループとの共同研究によって、Cox(MgO)1-xグラニュラー薄膜(注1)において、磁場中の熱電変換効果の一つである「異常ネルンスト効果」(注2)と呼ばれる熱磁気効果(注3)の大きさが、MgOの組成量に応じて大きく変化することを発見しました。
本研究で熱電変換素子への応用に用いた異常ネルンスト効果は、古くから知られた現象ですが、変換効率が低いことから発電への応用などにはあまり活用されてきませんでした。熱流の方向と電力を取り出すための電極の方向が垂直関係にある異常ネルンスト効果は電力の取り出しが熱勾配に影響されないことから、理想的な熱電変換技術といえるため、風力や太陽光など身の回りのエネルギーを利用する環境発電(注4)の分野などで注目を集めています。熱磁気効果をもつ磁性体を効率的に発電に利用するためには、材料に内在するナノ構造を制御することにより、その変換効率を向上する技術が必要であることが提案されていますが、その開発はあまり進んでいませんでした。そこで研究グループは、コバルト (Co) 薄膜に絶縁体である酸化マグネシウム (MgO) のナノメートルサイズの微粒子を分散させたグラニュラー薄膜材料に着目しました。研究グループでは、MgOの添加量を様々に変えて高品位なグラニュラー薄膜を作製し、熱から電圧への変換効率がMgOの添加量に依存して大きく増加することを発見しました。
今回作製したグラニュラー薄膜材料を用いれば、例えば絶縁体の添加量を適切に選択するだけで、熱電効率を自由に制御することができます。これにより、発電素子を設計する際、材料選択による自由度が生まれ、より効率的な熱電素子の開発、環境発電技術への幅広い応用が想定されます。また、これまであまり熱電変換素子(注5)などに活用されてこなかったグラニュラー薄膜ですが、その材料選択性の大きさや、材料作製の容易さから、新しい研究対象の材料としても期待されます。
図 1 Cox(MgO)1-xグラニュラー薄膜の異常ネルンスト効果の測定方法
Cox(MgO)1-xグラニュラー薄膜を作製しました。この薄膜面内方向に熱勾配を加えて、熱勾配と磁場の双方に垂直な方向の電圧 (異常ネルンスト電圧) を測定しました。
【用語解説】
注1 グラニュラー薄膜
母相(マトリックス)材料の中にナノメートルサイズの微小な粒子が多数分散した構造を有する薄膜についての総称。特異な電気伝導現象が生じることが多い薄膜です。
注2 異常ネルンスト効果
磁化した磁性体に熱流を流した際、磁化の向きと熱流の向きの外積方向に電圧を生じる現象。電圧の向きと大きさは磁性体の材料ごとに異なり、材料が持つ異常ネルンスト係数の符号と大きさによって決まります。
注3 熱磁気効果
金属や半導体に温度勾配による熱流があるとき、外部から磁場をかけると電位差や温度差が生じる現象。熱流磁気効果と呼ばれることもあります。
注4 環境発電
照明や振動、廃熱、体温、電磁波等の身の回りのエネルギーを利用して電力に変換する発電方法。エネルギーハーベスティングとも呼ばれ、近年、環境意識の高まりと省電力デバイスの普及により、これまで利用されていなかった環境中のエネルギーを利用することが注目されています。
注5 熱電変換素子
ゼーベック効果、ペルティエ効果、トムソン効果などの、熱と電気を関係づける現象を利用した素子の総称。例えば、2種類の異なる金属または半導体を接合して、両端に温度差を生じさせると起電力が生じるゼーベック効果は、熱エネルギーを電気エネルギーに変換する現象であり、ゼーベック素子に応用されています。
※2頁目の下から2行目を以下のとおり訂正いたしました。(2020年5月1日)
<訂正前>
本研究成果は、米国物理学紹介が刊行する
<訂正後>
本研究成果は、米国物理学協会が刊行する
問い合わせ先
(研究内容に関して)
東北大学金属材料研究所
先端エネルギー材料理工共創研究センター
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(報道に関して)
東北大学金属材料研究所
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Email:pro-adm*imr.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)