2020年 | プレスリリース?研究成果
犬のリンパ腫に対する新規抗体医薬の開発 ?犬リンパ腫対象獣医師主導臨床試験開始?
【発表のポイント】
- これまで犬のB細胞性リンパ腫に対する抗体療法は確立されていませんでしたが、山口大学共同獣医学部では、東北大学および日本全薬工業株式会社とともに、抗腫瘍細胞活性が非常に高い犬CD20抗体医薬を開発しました。
- 山口大学共同獣医学部動物医療センターでは、世界に先駆けて犬CD20抗体医薬を用いた獣医師主導臨床試験を実施しています。
- 本治療によりB細胞性リンパ腫の犬の寿命を延長する可能性が期待されます。
【概要】
山口大学共同獣医学部の水野拓也教授の研究グループは、東北大学未来科学技術共同研究センター/大学院医学系研究科の加藤幸成教授、および日本全薬工業株式会社と共同で、犬のB細胞性リンパ腫に対して抗腫瘍細胞活性が非常に高い抗犬CD20抗体を開発しました。本抗体医薬1)は、既報の抗犬CD20キメラ抗体よりもin vitroにおける腫瘍細胞に対する殺傷能力が著しく高いだけではなく、犬の腫瘍を移植したマウスにおいてもその増殖抑制効果を認めました。また健常ビーグル犬を用いた安全性試験においては、本抗体のターゲット分子であるCD20分子2)をもった正常B細胞が投与翌日にはほぼ0になるというほどの活性が認められました。このことはCD20分子をもつB細胞性リンパ腫に対しても同様の殺傷能力をもつことを示唆しており、臨床的な効果が期待されるものです。
本研究成果は、2020年7月10日(英国時間10時、日本時間7月10日18時)に、米国科学誌Scientific Reportsに掲載されました。本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業(BINDS)によって支援されました。
図1 抗犬CD20キメラ抗体である4E1-7-Bとフコース除去型抗体4E1-7-B_f抗体による犬B細胞性リンパ腫細胞株CLBL-1細胞に対する、(A)抗体依存性細胞傷害活性、(B)補体依存性細胞傷害活性、(C)直接の細胞傷害活性。
【用語解説】
1)抗体医薬
抗体医薬は、分子標的治療の一つであり、ターゲットとなる分子に対して特異的な抗体をもとにした治療法です。医療においては、悪性腫瘍だけではなく、炎症性疾患やアレルギー性疾患などさまざまな病気に対して50種類以上の抗体医薬が治療に使用されています。抗体医薬は生物学的製剤に分類され、原則として、副作用の問題や効果の面などから動物に用いることはできません。ペットの医療においては、世界的にみても抗体医薬で承認販売されているものは、抗犬IL-31抗体医薬 (サイトポイント?)しか存在せず、とくに悪性腫瘍に対する抗体医薬は皆無です。本抗体は、ペットの悪性腫瘍に対する抗体医薬として世界的にも期待されるものです。
2)CD20分子
CD20 とは、白血球の一種であるリンパ球のうちBリンパ球の系列の細胞表面に存在する分子て?す。 CD20分子は犬の正常なBリンパ球にも存在していますが、犬のB細胞系のリンパ腫細胞および一部のT細胞系のリンパ腫細胞においても存在していることが知られています。ヒトでは、すでに1997年よりこのCD20分子を標的とした抗体による治療法が一般的に用いられており、悪性リンパ腫の標準療法に組み入れられているように非常に有効性の高い治療であると考えられています。
問い合わせ先
<論文の内容および獣医師主導臨床試験に関するお問い合わせ>
東北大学未来科学技術共同研究センター
東北大学大学院医学系研究科抗体創薬研究分野
教授 加藤 幸成(かとう ゆきなり)
E-mail:yukinarikato*med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
関連URL:http://www.med-tohoku-antibody.com/index.htm
<報道関係のお問い合わせ>
東北大学大学院医学系研究科?医学部広報室
電話番号:022-717-7891
FAX番号:022-717-8187
E-mail : pr-office*med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)