2020年 | プレスリリース?研究成果
ハニカム格子イリジウム酸化物の人工超格子合成に成功 量子スピン液体の制御技術開発に前進
【発表のポイント】
- 真空成膜技術を駆使して、天然に存在しないハニカム(蜂の巣)格子イリジウム酸化物の人工超格子を合成することに成功
- 量子スピン液体と呼ばれる特殊な磁気状態実現への新たなアプローチ
- 薄膜?界面の自由度を活用した磁気特性の理解や制御技術の開発に貢献し、将来的な量子状態制御素子への応用展開も期待
【概要】
量子コンピュータなどの量子状態制御への応用可能性から、量子スピン液体(※1)が注目されています。イリジウムイオンがハニカム格子(蜂の巣)上に並んだ化合物は、この量子スピン液体をもたらす物質として素子への展開が期待されています。
東北大学金属材料研究所の藤原宏平准教授、三浦径大学院生(研究当時)、塚﨑敦教授、東京大学大学院工学系研究科の柴田直哉教授らの共同研究グループは、イリジウムイオンがハニカム格子(図1、B = Ir)上に配列した新規酸化物Mn-Ir-Oの人工超格子を合成することに成功しました。本研究の意義は、1. 真空成膜条件下でも安定な結晶構造を保つイルメナイト型酸化物に着目してIrO6ハニカム格子の薄膜合成に成功したこと、さらに、2. 人工超格子(※2)技術を用いることによって、真空成膜手法が新物質合成技術として有用であることを示したことにあります。
この成果は、量子スピン液体の物質開発に新たなアプローチを提供するだけでなく、薄膜試料を用いた機能素子の開発にも役立つものと期待されます。
本研究成果は、2020年8月12日(英国時間)に、英国科学誌「Communications Materials」オンライン版に掲載されました。
図1. ハニカム(蜂の巣)BO6格子
【用語解説】
※1 量子スピン液体
スピン間の相互作用が強い系では、一般に、低温で秩序状態が形成される。隣接するスピンが同じ向きに整列する強磁性や、反対向きに整列する反強磁性などが知られる。これらは、スピンの自由度(運動)が凍結した状態に対応しており、原子?分子の運動が生み出す物質の三態になぞらえると、スピン版の固体に相当する。
それに対して強い量子揺らぎにより極低温までスピンの長距離秩序が抑制された状態が量子スピン液体。スピン版の液体に相当する(物質そのものは固体)。キタエフ模型は、絶対零度で原理的に秩序化しない構造の理論提案。
※2 人工超格子
原子?分子を任意の厚みで繰り返し積み重ねることによって作製される人工物質。代表的な例として、半導体の超格子が知られ、レーザーなどに利用されている。
問い合わせ先
(研究内容に関して)
東北大学金属材料研究所 低温物理学研究部門
准教授 藤原 宏平
TEL:022-215-2088
Email:kfujiwara*imr.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
教授 塚﨑 敦
TEL:022-215-2085
Email:tsukazaki*imr.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関して)
東北大学金属材料研究所 情報企画室広報班
TEL:022-215-2144
FAX:022-215-2482
Email:pro-adm*imr.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)