2020年 | プレスリリース?研究成果
金属イオン間の電子の授受で極性構造を制御 強誘電体?圧電体材料や負熱膨張材料の開発に新しい知見
【発表のポイント】
- 特殊な電子状態に起因した極性構造(注1)を持つバナジン酸鉛とコバルト酸ビスマスを固溶させると、1:1に近い組成において、非極性の常誘電体(注2)構造が出現することを発見しました。
- この結晶構造変化の起源は、バナジウムイオンとコバルトイオンの間の電子の授受(金属間電荷移動)によることを明らかにしました。
- 強誘電体?圧電体(注3,4)材料や巨大負熱膨張(注5)材料の開発に新しい知見を与える研究成果です。
【概要】
次世代デバイス開発やエネルギー問題の解決のために、強誘電体?圧電体材料や負熱膨張材料の優れた新素材の開発が求められています。東北大学多元物質科学研究所 山本孟助教、木村宏之教授、戸田薫大学院生(理学研究科)らの研究グループは、特殊な電子状態に起因して極性構造を示すペロブスカイト型酸化物(注6)、バナジン酸鉛(PbVO3)とコバルト酸ビスマス(BiCoO3)の固溶体(注7)において、組成変化により、巨大な体積変化を伴う常誘電相への結晶構造変化が起こることを発見しました。また、誘電体特性の1つである自発電気分極(注8)の制御にも成功しました。これらの変化の起源は、バナジウムイオンとコバルトイオンの間の電子の授受(金属間電荷移動)によるものであることを明らかにしました。この発見は、強誘電体?圧電体材料や巨大負熱膨張材料などの新たな機能性材料の開発につながる成果です。
同研究グループには、東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所 東正樹教授、重松圭助教、酒井雄樹特定助教(以上3名は神奈川県立産業技術総合研究所併任)、西久保匠研究員、大阪府立大学 山田幾也准教授、高エネルギー加速器研究機構(KEK)物質構造科学研究所 佐賀山基准教授、高輝度光科学研究センター 水牧仁一朗主幹研究員および新田清文研究員が参加しました。
本成果は2020年8月11日(米国時間)にChemistry of Materials誌 でオンライン公開されました。
図1:(1-x)PbVO3-xBiCoO3固溶体における結晶構造変化と金属間電荷移動
【用語解説】
注1.極性構造:陽イオンと陰イオンの重心が一致しない結晶構造。非極性構造はこれらの重心が一致するもの
。
注2. 常誘電体(相):電気分極を持たない(非極性の)物質および結晶構造。特に導電性よりも誘電性が優位なものを指す。
注3.強誘電体:外部電場がなくとも電気分極の方向が揃っており、外部電場によってその方向が反転する物質。強誘電性はその性質。外部電場による電気分極の反転が起こらないものは、焦電体という。
注4.圧電体:応力をかけると物質の表面に電荷が現れ、電界を印加すると変形する物質のこと。圧電性はその性質。強誘電体と焦電体は圧電性を示す。
注5.負熱膨張:温めると体積が収縮する性質。
注6.ペロブスカイト型酸化物:一般式ABO3で表される元素組成を持った金属酸化物の代表的な結晶構造をもつ酸化物。
注7.固溶体:2種以上の物質が混合した均一な固相。
注8.自発電気分極:陽イオンと負イオンの重心がずれるため生じる電荷の偏り。
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学多元物質科学研究所
担当:山本 孟(やまもと はじめ)
電話:022-217-5355
E-mail:hajime.yamamoto.a2*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学多元物質科学研究所 広報情報室
電話:022-217-5198
E-mail:press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)