2020年 | プレスリリース?研究成果
自閉スペクトラム症が異種の疾患の集合体である可能性を発見 ~人工知能を用いて自閉スペクトラム症の個別化医療を実現へ~
【発表のポイント】
- 人工知能の一つである機械学習*1の手法を活用し、自閉スペクトラム症(ASD)*2が異種の疾患の集合体である可能性があることを世界で初めて発見しました。
- ASDを分割して、「クラスターごとの患者群」と対照群で遺伝情報上の比較を行ったところ、「患者群全員」と対照群の比較では発見できなかった多くの有意な「違い」つまり疾患原因の候補が観察されました。
- 機械学習を用いて症例をより均質な集団にクラスタリング*3することにより、それぞれの集団の特徴に応じた個人毎のアプローチ、個別化医療が可能となることが期待されます。
- ASDの遺伝的構造と病因を解明し、ASDの精密医療の開発を促進する手がかりを提供する成果です。
【概要】
自閉スペクトラム症(ASD)は、症状などの表現型*4の点からも遺伝的要因の点からも極めて多様なものであることが指摘されてきました。ASDの主な特徴は、常同行動*5とコミュニケーション障害ですが、ASDには音への過敏や統合運動障害など他にも多くの症状を示す場合があります。遺伝的要因に関しては、現在のところ1,000を超える候補遺伝子が報告されていますが、ASDのリスク増加を十分に説明する遺伝的変異は特定されていません。
東北大学大学院医学系研究科の栗山進一教授を中心とする研究グループは、表現型の変数を適切に組み合わせてASD患者をグループ化(クラスタリング)すると、遺伝的感受性因子を特定するチャンスが増える可能性があることに着目し、人工知能の一つである機械学習の手法を活用して、ASDが異種の疾患の集合体である可能性があることを世界で初めて発見しました。クラスター分析とゲノムワイド関連解析(GWAS)*6の組み合わせアプローチはわたしたちの知る限りでは、ASD等の疾患に適用した初めての試みです。
この研究成果は、Translational Psychiatry誌に2020年8月17日にオンライン掲載されました。
図1 クラスターごとの患者群と対照群とで実施されたGWASの方法
【用語解説】
*1. 機械学習:機械学習(Machine Learning)は人工知能解析技術のひとつで、人間が経験的に行っている学習するという能力と同様の機能、特にデータを学習してそこに潜む特徴を見つけ出し、タスクをより性能よく遂行するためのモデルを構築するような機能をコンピュータで実現しようとする技術のことです。
*2. 自閉スペクトラム症(ASD):自閉症と同義。発達障害のひとつで、常同行動とコミュニケーション障害の大きな2つの特徴をもちます。ASDには、これら2つの特徴以外にも、音への過敏、言語の表出障害、統合運動障害など多くの特徴をもつ場合があります。
*3. クラスタリング:データの性質からデータのかたまり(クラスター)をつくる手法のことです。一見すると何らの関連もないようなデータの集合体の中から、ある基準を用いることで似たようなデータの集団を同定し、クラス分けを行います。
*4. 表現型:生物の外見に現れた形態的あるいは生理的な性質のことです。遺伝型に対する言葉として用いられ、髪の質や体型、性格などが含まれます。
*5. 常同行動:主に反復的あるいは儀式的な行動、姿勢、発声などをいいます。身体揺すりや足を重ねたり解いたりの繰り返しなどが含まれます。自閉スペクトラム症ではこの常同行動が大きな特徴のひとつですが、個人ごとに行動の種類やその強さに極めて大きな違いがみられます。
*6. ゲノムワイド関連解析(GWAS):Genome-Wide Association Studyの略。ゲノム全体を対象にSNP等をマーカーとして、患者と対照との間で比較する研究手法のことです。
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科
東北大学東北メディカル?メガバンク機構
教授 栗山 進一(くりやま しんいち)
電話番号:022-717-8104
Eメール:kuriyama*med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道担当)
東北大学東北メディカル?メガバンク機構
長神 風二(ながみ ふうじ)
電話番号:022-717-7908
ファクス:022-717-7923
Eメール:pr*megabank.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)