2020年 | プレスリリース?研究成果
室温動作ポラリトンレーザの実現に向けて大きな前進 -超低消費電力な近紫外線コヒーレント光源の実現に道-
【発表のポイント】
- 励起子および光子が比較的長い時間存在できる半導体微小共振器注1を作製。
- 室温で共振器モードに結合した励起子ポラリトン注2を観測。
- 反転分布注3が不要な、超省電力コヒーレント光源への応用が期待。
【概要】
夢の超省電力光源として、励起子と光子の連成波(励起子ポラリトン)を微小共振器モードと結合させて用いる共振器ポラリトンレーザの実現が期待されています。東北大学多元物質科学研究所の嶋紘平助教、古澤健太郎助教(現NICT主任研究員)、秩父重英教授は、室温において励起子が安定して存在できる酸化亜鉛(ZnO)単結晶を活性層とするチップサイズの微小共振器を作製し、共振器ポラリトンを室温で観測することに成功しました。共振器ポラリトンは低濃度でも単一のエネルギー状態を占有するコヒーレンシーが高いため、ポラリトンレーザは従来の半導体レーザよりも大幅に低いキャリア注4濃度でコヒーレント光を発する可能性があります。今回実証した、チップサイズの微小共振器による室温での共振器ポラリトン生成は、室温動作ポラリトンレーザの実現に向けた大きな前進です。
本研究の成果は2020年8月19日に、米国物理協会(AIP)の科学雑誌Applied Physics Lettersにてオンライン公開されました。
【参考画像1】 トップダウン方式によるZnO微小共振器の作製方法。水熱合成ZnO単結晶基板の片面に、R-HWPS法により誘電体DBRを堆積します。次に、ZnO単結晶基板を研磨により光の波長程度の厚みまで薄膜化します。さらに、研磨した面に誘電体DBRを堆積させることによりZnO微小共振器を作製します。
【用語解説】
注1.微小共振器
光の波長程度(数百ナノ~マイクロメートル)の厚さの活性層媒質が、2枚の合わせ鏡より挟まれた構造。光を閉じ込めるための構造。
注2.励起子ポラリトン
分極波である励起子(伝導電子と正孔の対がクーロン引力により束縛しあった量子)と電磁波である光子が近い振動数において結合した状態。励起子と光子が連成波となり準粒子として半導体中を伝搬する。
注3.反転分布
電子や粒子の、エネルギーの高い準位の状態密度が低い準位の状態密度を上回った分布状態。
注4.キャリア
物質中で電荷を運ぶ荷電粒子または準粒子。
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学多元物質科学研究所
担当: 教授 秩父重英
電話: 022-217-5363
E-mail:chichibu*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学多元物質科学研究所 広報情報室
電話:022-217-5198
E-mail:press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)