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酸化物ナノ構造に現れる新しい電子相の発見 ~二酸化バナジウムを用いたモットトランジスタ開発に新しい知見~

【発表のポイント】

  • 二酸化バナジウム(VO2)のナノ構造において、量子サイズ効果により新しい電子相が生じることを発見しました。
  • 高輝度放射光(注1)を用いた軟X線(注2)分光により、その起源を明らかにしました。
  • この成果は、モットトランジスタ(注3)の開発に新しい展開をもたらすと期待されます。

【概要】

二酸化バナジウム(VO2)は室温付近で巨大な金属?絶縁体転移を示すことから、次世代デバイス材料として盛んに研究されている機能性酸化物の一つです。しかし、VO2の示す金属?絶縁体転移においては、デバイス設計に必須となるナノ領域における振る舞いはよく分かっていませんでした。東北大学多元物質科学研究所の志賀大亮大学院生、吉松公平講師、組頭広志教授らの研究グループは、高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所の北村未歩助教、堀場弘司准教授等と共同で、VO2をナノレベルまで薄くすると従来とは異なる新しい電子相が現れることを明らかにしました。

今後、この知見に基づいて最適なデバイス構造を設計することが可能になり、BeyondCMOS(注4)の有力候補であるモットトランジスタの実現が期待されます。

本研究成果は、米国物理学会誌Physical Review Bの注目論文(Editors' Suggestion)に選ばれ、2020年9月9日にオンライン掲載されました。

参考図:
(a) VO2ナノ構造の電子相図。1nm以下の極薄膜領域で二量化を伴わない新しい電子相が生じる。
(b) VO2ナノ構造に現れる新しい電子相の発現機構

【用語解説】

(注1)放射光
光速近くまで加速された電子の軌道を磁場によって曲げると、接線方向に光が放出されます。この光は放射光と呼ばれ、高い輝度や偏光性などの優れた特性をもつ光源として、科学技術の広い分野で大いに活用されています。近年、高輝度放射光施設が世界各地で建設されており、先端材料や次世代デバイスなどの研究に大いに活用されています。

(注2)軟X線
X線とは一般に5~20 keV(キロ電子ボルト)のエネルギーをもつ電磁波を指し、レントゲンなど私たちの身の回りで良く使われます。任意のエネルギーの電磁波を射出できる放射光では、さらに広いエネルギー範囲の電磁波を利用することができます。この範囲によってX線の呼び方が変わり、0.3~2 keVを軟X線と呼びます。軟X線のエネルギー領域では、光と物質中の電子との相互作用が大きく、物質の電子状態や化学状態を調べるのに適しています。

(注3)モットトランジスタ
従来の電界効果トランジスタは、不純物を添加した半導体に電圧をかけて電子や正孔を注入することによって電気抵抗を切り替えています。一方、電圧による強相関電子のモット転移(金属?絶縁体転移)を利用する新しい原理のトランジスタをモットトランジスタと呼びます。モット転移を利用するため、従来のトランジスタに比べて高い素子性能を持つことが期待されています。

(注4)BeyondCMOS
現在の半導体素子は、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor:相補型金属-酸化物-半導体)と呼ばれる構造をもっています。CMOSでは、不純物を添加した半導体に電圧をかけて電子や正孔を注入することによって電気的なスイッチング機能を実現しています。CMOS素子の性能は、長年進化し続けて来ましたが、近年では原理的な限界に近づきつつあります。そのため、新たな動作原理によって従来の半導体素子性能を超えるデバイスを作製しようという試みが行われており、それに向けた要素技術開発を総じてBeyondCMOSと呼びます。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学多元物質科学研究所
教授 組頭 広志(くみがしら ひろし)
電話:022-217-5802
E-mail:kumigashira*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学多元物質科学研究所 広報情報室
電話:022-217-5198
E-mail:press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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