2020年 | プレスリリース?研究成果
ダークマターの正体はアクシオンか XENON1T実験の結果を説明しダークマターと星の冷却異常をつなぐ説を提唱
【発表のポイント】
- ダークマターの直接探索実験であるXENON1T*1によって捉えられていた予想外の電子散乱事象は、光とほとんど相互作用をしないアクシオンという新粒子がダークマターであれば説明可能であることを示しました。
- さまざまな星の進化の観測からもアクシオンの存在が示唆されており、XENON1T実験における過剰な電子散乱事象から導かれるアクシオンの質量および相互作用の強さと見事に一致することを明らかにしました
- これにより、ダークマターの直接探索実験とさまざまな星の進化の観測が一つの事実「アクシオンダークマター」により説明される可能性が開かれました。
- 本研究の発見が今後の実験で確定的なものとなれば、宇宙論および素粒子理論の発展に大きく貢献します。
【概要】
ダークマターは宇宙に漂う未知の物質で、その正体の解明が世界中で進められています。今年の6月、液体キセノンを用いたダークマター探索実験であるXENON1Tで、素粒子の標準的な理論では説明のつかない電子反跳事象の兆候が得られたと発表されました。
東北大学学際科学フロンティア研究所の山田將樹助教、理学研究科の高橋史宜教授(東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構客員上級科学研究員)、東京大学大学院理学系研究科の殷文研究員らの研究グループは、XENON1Tによって得られたシグナルはアクシオンと呼ばれるダークマター候補の一つが電子に吸収されることによって生じた可能性を指摘しました。
さらに本研究では、アクシオンがXENON1T実験の結果を説明すると同時に、冷却異常を起こしている白色矮星などの一部の天体の進化をより良く説明できることを示しました。これにより、素粒子実験と天体観測という異なる分野で得られたシグナルが、共通のアクシオンという新粒子の存在によって説明できる可能性が明らかになりました。
本研究の成果は、米国現地時間の10月12日、学術誌 Physical Review Letters にXENON1T実験の結果と同時に掲載され、重要な成果として顕彰されるEditors' suggestion (注目論文) に選ばれました。
図1. アクシオンと光子の相互作用を与える量子アノマリーのダイアグラム 一般には量子アノマリー*2を通してアクシオン(a)と二つの光子(γ)が結合しているが、本研究では量子アノマリーを持たない特別なアクシオンを考えることで、X線の観測結果と矛盾せずにXENON1T実験の結果を説明することができることを示した。
【用語解説】
*1 XENON1T実験
米国?ヨーロッパ?日本を中心とした国際共同実験グループ XENON コラボレーションによる、液体キセノンを用いた暗黒物質直接探索実験。日本からは東京大学、名古屋大学、神戸大学が参加している。2016年から2018年までの間、イタリアのグランサッソ国立研究所 (INFN, Laboratori Nazionali del Gran Sasso) の地下研究所において稼働されていた。
*2 量子アノマリー
素粒子が従う量子的な理論において、古典論における保存則が成り立たなくなる現象。量子異常とも呼ばれる。アクシオンは一般にこの量子アノマリーを通じて光子と相互作用をする。
問い合わせ先
(研究に関して)
東北大学学際科学フロンティア研究所
助教 山田將樹
E-mail: m.yamada*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関して)
東北大学学際科学フロンティア研究所
URA 鈴木一行
電話: 022-795-4353
E-mail: suzukik*fris.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)