2020年 | プレスリリース?研究成果
窒化ガリウムを用いた超高速トランジスタの高出力化?高速化 Society 5.0の実現に欠かせないキーデバイス
【発表のポイント】
- 窒化ガリウムGaNを用いた超高速トランジスタ(GaN-HEMT※1)は、Society 5.0の実現に欠かせない、第五世代移動通信システム(5G)やその次のBeyond 5Gのキーデバイスです。
- GaN-HEMTの高周波動作の決定要因の一つである表面電子捕獲の時空間挙動の直接観測及びそのメカニズム解明に初めて成功しました。
- 得られた成果は、GaN-HEMTの更なる高出力化?高速化につながるものであり、5GおよびBeyond 5Gにおける日本の優位性を支えるものとなります。
【概要】
Society 5.0の基盤インフラとなる5G?Beyond 5Gの中核を担う超高速トランジスタGaN-HEMTに関し、デバイス動作条件下での電子状態の高精度な時空間観測を可能にするために、オペランド?ナノ時空間分解X線吸収分光※2を開発し、デバイス動作下でのGaN-HEMTの直接観測に初めて成功しました。その結果、GaN-HEMTの特性の決定要因の一つである表面電子捕獲の時空間挙動が初めて解明され、表面電子捕獲の詳細なメカニズムが明らかになりました。さらには、表面保護膜による特性向上のメカニズムをも詳らかにしました。本研究の成果は、GaN-HEMTの更なる高出力化?高速化につながるものです。本研究は、東北大学電気通信研究所の吹留博一准教授らの研究グループと住友電気工業、高輝度光科学研究センターと産官学連携共同研究です。
本研究成果は、10月30日(日本時間)にAmerican Institute of Physicsの科学誌「Applied Physics Letters」に掲載されました。
図1 今回のオペランド?ナノ時空間分解X線吸収分光の測定概略。
【用語解説】
※1 GaN-HEMT
GaN上にAlGaNを成長させたときに生じる界面のポテンシャルにより二次元的に閉じ込められた電子が、高速に動くことを利用した高速通信用トランジスタです。GaNのバンドギャップが大きいことから、大きな電圧を印加することができ、高速性だけでなく、高出力性も兼ね備えています。GaN-HEMTの携帯基地局用応用などに関し、住友電気工業は世界トップシェアを誇っています。
※2 オペランド?ナノ時空間分解X線吸収分光
オペランド?ナノX線吸収分光とは、光電子顕微鏡(PEEM)を用いてX線吸収分光法に高い顕微機能(分解能:<100 nm)を持たせ、デバイス動作下で行う分光法のことです。これにより、従来、膜の状態でしか測定出来なかった電子状態が、実際にデバイスが動作している状態で機能部位毎に調べることが可能となりました。このような特徴を持つオペランド?ナノX線吸収分光は、基礎科学的だけでなく、産業界からも注目されています。なお、本研究で用いた装置は、SPring-8の軟X線固体分光ビームライン(BL25SU)に設置されているものです。この分光を用いた研究は、GaN-HEMT、グラフェン?トランジスタ、SiCパワーデバイス、さらには電極用材料までにわたる幅広い研究分野まで展開しています。
問い合わせ先
<研究に関すること>
東北大学電気通信研究所
准教授 吹留 博一
TEL/FAX:022-217-5484
E-mail: fukidome*riec.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
<報道に関すること>
東北大学電気通信研究所
総務係
TEL: 022-217-5420
E-mail: somu*riec.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)