2020年 | プレスリリース?研究成果
難治性肺がんの幹細胞性を制御するゲノム領域の発見 難治性肺がんの制圧に向けて
【発表のポイント】
- 抗がん剤耐性を示し難治性であるNRF2活性化がんで、がん幹細胞性に関わるゲノム領域と責任遺伝子を発見しました。
- がん幹細胞性を担う責任遺伝子であるNOTCH3を抑制することで、効果的にNRF2活性化がんを抑制できることを明らかにしました。
【概要】
転写因子NRF2*1は、正常な状態では生体防御に関わる様々な遺伝子を活性化することで私達の健康維持において重要な役割を果たしています。しかし、異常に活性化すると極めて予後不良な非小細胞肺がん(NRF2活性化がん)の原因となります。東北大学加齢医学研究所遺伝子発現制御分野の岡崎慶斗助教、関根弘樹講師、本橋ほづみ教授の研究グループは、同呼吸器外科学分野の岡田克典教授、東北大学医学系研究科?鈴木貴教授、同情報科学研究科/東北メディカル?メガバンク機構?木下賢吾教授らと共同して、NRF2活性化がんにおいて、がん幹細胞性*2の維持に必須のゲノム領域を発見しました。このゲノム領域はNRF2活性化がんで特異的に機能を発揮し、NOTCH3タンパク質*3を増加させることにより、がん幹細胞性を支えていることが明らかになりました。本研究成果は、抗癌剤耐性を示すNRF2活性化がんに対する有効な治療戦略になることが期待されます。
本研究成果は、11月20日に英国の学術誌Nature Communications誌に掲載されました。
図1 NRF2活性化がんでは、NRF2が常に働き、がん細胞の悪性化をもたらしている。正常細胞や普通のがん細胞では、転写因子NRF2の働きは細胞質のタンパク質KEAP1により制御されている(左図)。平常時はKEAP1がNRF2を分解に導いており、NRF2の働きは抑制されている。細胞が酸化ストレスに曝されると、KEAP1が機能しなくなるため、NRF2が安定化して転写因子としての機能を発揮し、生体防御に関わる遺伝子群を一挙に活性化する。一方、一部のがん細胞では、KEAP1によるNRF2の分解が破綻し、NRF2が常に安定化している。このようなNRF2活性化がん細胞は、腫瘍形成能が旺盛で、抗がん治療に対する抵抗性も強く、難治性である。
【用語解説】
*1 転写因子:DNA上の特定の配列を認識して結合し、遺伝子の転写を促進するタンパク質。
*2 がん幹細胞性:腫瘍組織を構成するがん細胞のうち、腫瘍を再生する能力を持つ細胞のことを、がん幹細胞と呼ぶ。がん幹細胞は、強い薬剤耐性と自己複製能を持ち、再発や転移の原因とされている。がん幹細胞性とは、このようながん幹細胞としての性質のこと。
*3 NOTCH3:細胞膜に存在する受容体型タンパク質で、リガンドの刺激を受けると細胞内ドメインが切断されて核に移行し、標的となる遺伝子群を活性化する。肺がんのがん幹細胞性の維持に貢献するという報告がある。
問い合わせ先
東北大学加齢医学研究所
担当 本橋ほづみ
電話 022-717-8550
E-mail hozumim*med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)