2020年 | プレスリリース?研究成果
宇宙空間でイオンが電子より高温になる理由を解明 -プラズマ中の"音波"がイオンを選択的に加熱-
【発表のポイント】
- ブラックホールの降着円盤(注1)や太陽風(注2)を構成している高温?希薄なプラズマ(注3)の乱流を大規模数値シミュレーションで再現。
- イオンと電子が乱流によってどのように加熱されるか調査。
- 縦波(注4)的なゆらぎが存在するとイオンが選択的に加熱されることを発見。
【概要】
太陽から吹き出る太陽風やブラックホールを取り巻く降着円盤はプラズマで出来ています。宇宙に存在するプラズマは高温?希薄であるため、プラズマを構成するイオンと電子の間の衝突がほとんど起こらない無衝突状態にあります。そのためイオンと電子は直接相互作用をせず、異なった温度を取ることが可能です。実際に、これらの天体現象ではイオンの方が電子より遥かに高温になっていることが分かっていました。しかし、なぜイオンが電子より高温になるのか?この疑問の答えは長年の未解決問題でした。
東北大学学際科学フロンティア研究所の川面洋平助教(大学院理学研究科兼任)を中心とした国際チームは、国立天文台の「アテルイⅡ」(注5)をはじめ複数のスーパーコンピュータ用いて無衝突プラズマ乱流のシミュレーションを行い、イオンと電子がどのように乱流によって加熱されるかを調査し、この問題を解決しました。プラズマの乱流中には縦波的ゆらぎと横波的ゆらぎが存在していますが、これまで行われてきた研究では横波的ゆらぎのみが考えられてきました。本研究では、世界で初めて縦波的ゆらぎを含む無衝突乱流を計算し、イオンが縦波的ゆらぎのエネルギーを選択的に吸収することで電子より高温になることを突き止めました。この結果は、2019年に公開されたイベントホライズン望遠鏡(注6)によるブラックホールの影の撮像結果を解析する際にも重要となります。
本研究の成果は、2020年12月11日に発行された米国の科学雑誌「Physical Review X」に掲載されました。
図1:本研究の概念図。降着円盤や太陽風の中で、プラズマを構成しているイオンと電子が乱流によって加熱される。(クレジット:川面洋平)
【用語解説】
(注1)降着円盤
ブラックホールや中性子星などの大質量星や誕生したばかりの若い恒星の周りを回転しながら中心に落下する円盤状のプラズマの流れ。プラズマは円盤中で乱流状態になっており、中心に向かって落ち込むにつれて高温に加熱される。
(注2)太陽風
コロナと呼ばれる太陽の上層大気から吹き出すプラズマの風。地球ではオーロラや磁気嵐が太陽風によって引き起こされる。
(注3)プラズマ
プラスの電荷を帯びたイオンとマイナスの電気を帯びた電子で構成されるガス。個体、液体、気体に続く物質の第4の状態。宇宙に存在するダークマター以外の「目に見える」物質の99%はプラズマ状態にあると考えられている。
(注4)縦波
波の進む方向と媒質の振動方向が平行であるもの。縦波の例である音波では、密度の変動方向が波の進む方向と平行になっている。プラズマ中では密度だけでなく磁場強度の変動も縦波になる。一方横波では波の進む方向と媒質の振動の方向が垂直になる。横波の例は弦の振動である。プラズマでは磁力線の振動が横波になる。
(注5)スーパーコンピュータ「アテルイⅡ」
国立天文台が運用するシミュレーション天文学専用のスーパーコンピュータ。国立天文台水沢キャンパス(岩手県)に設置されており、3.087ペタフロップスの理論演算性能を持つ。
(注6)イベントホライズン望遠鏡
地球上に点在する電波望遠鏡を組み合わせることで地球サイズの仮想的な超巨大望遠鏡を作る国際プロジェクト。昨年、M87銀河中心の巨大ブラックホールの姿を明らかにした。
問い合わせ先
(研究に関して)
東北大学 学際科学フロンティア研究所 (大学院理学研究科兼任)
助教 川面 洋平(かわづら ようへい)
E-mail:kawazura*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関して)
東北大学 学際科学フロンティア研究所
URA 鈴木 一行(すずき かずゆき)
電話:022-795-4353
E-mail:suzukik*fris.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)