2020年 | プレスリリース?研究成果
指定難病脆弱X症候群発症の新たな分子メカニズムの解明 胎仔脳での特定分子経路の活性化が原因の可能性
【発表のポイント】
- 胎仔期のマウスの脳において、遺伝性の神経発達障害注1の一種である脆弱X症候群注2の原因となる可能性のある分子を網羅的に同定した。
- 脆弱X症候群の原因遺伝子Fmr1の機能が欠失したマウスでは、胎仔期の脳でタンパク質の合成を制御するmTOR経路注3が異常に活性化されていた。
- この異常が脳の適切な発生発達を妨げ、脆弱X症候群の病態を引き起こす可能性がある。
【概要】
脆弱X症候群(fragile X syndrome, FXS)は発症頻度が比較的高い遺伝性の精神発達障害であり、精神遅滞や自閉症様症状を示します。脆弱X症候群は、FMR1遺伝子の異常によって発症することが明らかにされており、その遺伝子の産物であるFMRP タンパク質が、他のタンパク質量を調節することが報告されています。正常なFMRPは大人の脳の神経細胞の正常な働きを助けていますが、胎児期の脳についての役割はほとんど明らかにされていませんでした。東北大学大学院医学系研究科発生発達神経科学分野の大隅典子教授らのグループは、胎児期の脳内における脆弱X症候群の原因となる新たな分子メカニズムの一端を明らかにしました。胎仔期のマウスの脳において、FMRPの標的分子を網羅的に同定した結果、Fmr1を欠くマウスでは胎仔期の脳でタンパク質の合成を制御するmTOR経路が異常に活性化されることが明らかになりました。本研究によって、脳の発生期における遺伝性発達障害研究の発展に貢献することが期待されます。
本研究成果は、2020年12月16日午前1時(現地時間、日本時間12月16日午前10時)Molecular Brain誌(電子版)に掲載されました。
【用語解説】
注1. 神経発達障害:脳機能の発達に関係する、日常生活に何らかの支障をきたしている障害。多様な症状を示し、自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群、その他広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害などが含まれる。英語ではneurodevelopmental disorderと称され、「神経発達症」、「精神発達障害」と呼ばれることもある。
注2. 脆弱X症候群:身体な特徴を示し、精神遅滞や自閉スペクトラム症様行動を呈する遺伝性の疾患。染色体検査によりX染色体の末端が脆くなっていることから名付けられ、病態を引き起こす原因の遺伝子(FMR1)が特定されている。
注3. mTOR経路:mechanistic target of rapamycin (mTOR)という分子を中心とした分子ネットワーク。細胞が外界の栄養を感知して、適切に分裂して増える過程で重要なタンパク質の合成を制御する。mTOR経路の異常は、がんや心血管疾患、糖尿病など、多くの病態に関与。
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科
発生発達神経科学分野
教授 大隅 典子
電話番号:022-717-8203
Eメール:osumi*med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(取材に関すること)
東北大学大学院医学系研究科?医学部広報室
電話番号:022-717-7891
FAX番号:022-717-8187
Eメール:pr-office@med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)