本文へ
ここから本文です

アレルギー疾患に関わる遺伝子変異の新発見 -震災復興プロジェクト住民コホート研究からの新知見-

【本学研究者情報】

〇本学代表者所属?職?氏名:大学院医学系研究科皮膚科学分野?准教授?山﨑 研志
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 震災復興プロジェクトによるコホート調査注1を用いて日本人のアレルギー体質の特異性を調べた。
  • アレルギー疾患と深く関係のある血清中のIgE抗体注2濃度と関連する遺伝子変異を新たに発見。
  • 発見された遺伝子変異の一つはアレルギー性鼻炎の発症リスクを軽減することが分かった。

【概要】

アレルギー疾患は日常生活の質に関わる重要な疾患でありますが、花粉やダニなどの環境因子が発症リスクとなることは知られているものの、その作用機序や遺伝的な背景などにおいて未解明な点も多い疾患です。

東北大学医学系研究科皮膚科学分野の志藤光介医師、山﨑研志准教授、相場節也前教授のグループは、東北メディカル?メガバンク機構の小島要講師、木下賢吾教授らと共同でアレルギー疾患と深く関わる遺伝子変異を同定しました。本研究では東北メディカル?メガバンク機構が推進するコホート調査の参加者のうち約1万人を対象として、花粉症やアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患に関与するIgE抗体の血清中の濃度についてゲノムワイド関連解析(GWAS)注3を行いました。その結果、IgE抗体濃度と関連する遺伝子変異を新たに発見しました。特に、IL-4受容体α鎖注4はアレルギー疾患の治療薬とも深い関わりがあり、阻害薬がアトピー性皮膚炎や喘息に高い効果を示すことが知られています。アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎、喘息と本研究で同定されたIL-4受容体α鎖遺伝子上の一塩基多型(SNP)注5の関わりを調べたところ、アレルギー性鼻炎の発症リスクと関連することが分かりました。今後はアレルギー性鼻炎やアトピー性皮膚炎など対象疾患を絞って解析することで、アレルギー疾患に関与する遺伝子のさらなる解明が期待されます。

本研究成果は、2021年4月14日に米国研究皮膚科学会誌Journal of Investigative Dermatologyのオンライン版に掲載されました。

図1.本研究で実施したGWAS解析ならびにその結果の概要
a. 震災復興プロジェクトの一環として行っている、東北メディカル?メガバンク計画の宮城県と岩手県におけるコホート調査で集められた情報を用いて、約1万人の遺伝子情報と血清総IgE値を解析しました。b. GWAS解析を行った結果、MHC領域とIL-4受容体α鎖遺伝子上のSNPが血清総IgE値と関連することが分かりました。このIL-4受容体α鎖遺伝子上のSNPはIL-4受容体タンパク質の82番目のアミノ酸についてアラニンからトレオニンへの置換を引き起こすものでした。c. IL-4またはIL-13が受容体に結合するとIgE抗体をコードする遺伝子の発現が活性化され、IgE抗体の産生が増加します。

【用語解説】

注1.コホート調査:一定の集団を対象に長期に渡って生活習慣と疾患の発症について調査することで、生活習慣または特定の事象の暴露と疾患発症リスクとの関係を解析するための分析疫学の一手法。これまでのコホート調査としては米国で行われたフラミンガム研究などが代表的であり、今日では常識となっている心臓疾患の発症リスクと喫煙をはじめとした生活習慣などとの関係がフラミンガム研究で明らかとなった。

注2.IgE抗体:アレルギー物質と結びつきヒスタミンなどの放出を誘導し、炎症反応(アレルギー反応)を引き起こすことが知られている抗体の一つ。元々は寄生虫に対する免疫応答のために存在したと考えられており、寄生虫感染症がまれである今日ではアレルギー物質への反応がIgE抗体の増加の主な原因となる。

注3.ゲノムワイド関連解析(GWAS):SNP(後述)を主としたヒトゲノムの全体をほぼカバーする数百万から数千万の変異情報について、形質(今回は血清総IgE値)と合わせて統計学的な処理を行うことで遺伝子と形質の関連性を調べる遺伝解析手法。

注4.IL-4受容体α鎖:IL-4ないしIL-13の受容体であるタイプI受容体、タイプII受容体を形成するためのサブユニットとなるタンパク質。タイプI受容体およびタイプII受容体を介したIL-4およびIL-13からの細胞内への情報伝達により、IgE抗体の産生が制御されることが知られている。

注5.一塩基多型(SNP):ある集団の中でDNA配列の一箇所(一塩基)の違いが1%以上の頻度で観察される時、その違いを一塩基多型と呼ぶ。個人個人の遺伝子や体質の差を調べる際にSNP情報が利用されることが多い。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科皮膚科学分野
准教授 山﨑 研志(やまさき けんし)
大学院生 志藤 光介(しどう こうすけ)
電話:022-717-7271
Eメール:kyamasaki*med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

東北大学東北メディカル?メガバンク機構
生命情報システム科学分野
教授 木下 賢吾(きのした けんご)
電話:022-274-5952
Eメール:kengo*ecei.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(取材に関すること)
東北大学大学院医学系研究科?医学部広報室
東北大学病院広報室
電話:022-717-8032
FAX:022-717-8931
Eメール:press*pr.med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

このページの先頭へ