本文へ
ここから本文です

下部マントルの不均一性を解く鍵:沈み込みスラブを起源とするブリッジマナイトの単結晶構造物性が明らかに!

【本学研究者情報】

〇金属材料研究所 教授 杉山和正
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 下部マントルへ沈み込んだ海洋地殻で生成する鉄成分とアルミニウム成分に富んだブリッジマナイトにおける鉄とアルミニウムの導入メカニズムは、それらがマグネシウム?珪素と置き換わる「電荷カップル置換」だけに支配されていることを明らかにしました。
  • 歪んだペロブスカイト型構造をもつブリッジマナイトが、下部マントル深部に行くにつれて、他のペロブスカイト型構造へ相転移する可能性は否定できないことを示しました。
  • 弾性波速度の一つであるバルク音速を結晶学的アプローチから見積る方法論も提案しました。この手法は下部マントル中での地震波特性を知る有力な手掛かりになると期待されます。

【概要】

山口大学大学院創成科学研究科の中塚晃彦准教授は、高輝度光科学研究センターの福井宏之研究員(研究当時、兵庫県立大助教)および平尾直久主幹研究員、東北大学学際科学フロンティア研究所の鎌田誠司助教(研究当時)、広島大学大学院先進理工系科学研究科の大川真紀雄助教、東北大学金属材料研究所の杉山和正教授、岡山大学惑星物質研究所の芳野極教授との共同研究において、鉄(Fe)とアルミニウム(Al)の成分に富む中央海嶺玄武岩※1(MORB)組成から生成されるブリッジマナイト(下部マントル※2 の主要鉱物)の単結晶合成に成功しました。この単結晶試料に対するX線精密構造解析と放射光メスバウア分光測定により、下部マントルへ沈み込んだ海洋プレート(スラブ)のうち最上部を構成するMORBすなわち海洋地殻で生成されるブリッジマナイトでは、電荷カップル置換というメカニズムのみによって、FeとAlが結晶構造中へ導入されることを明らかにしました。下部マントルの化学組成の不均一性を解く鍵を握るMORB組成から生成したブリッジマナイトの単結晶構造物性を明らかにしたのは、本研究が世界で初めてです。

この研究成果は、2021年11月24日に英国の科学雑誌Natureの姉妹誌である「Scientific Reports」に掲載されました。

図1.(a)SPring-8のビームラインBL10XUに設置されているメスバウア分光装置と(b)その模式図。(c)ブリッジマナイト単結晶のメスバウアスペクトルと(d)そのフィッティング残差。この測定から、合成されたブリッジマナイト中の鉄(Fe)はすべて3価の高スピン状態であることが分かった。

【用語解説】

※1.中央海嶺玄武岩
マントル対流の上昇域にあたる中央海嶺で、マグマが海底に噴出し固結してできた玄武岩のこと。これが海洋プレートを形成し、水平に移動し、最終的に日本列島のような島弧海溝系の沈み込み帯において、マントルに沈み込んでいく。沈み込んだ海洋プレートをスラブと呼ぶ。沈み込み帯では、中央海嶺で形成された玄武岩類や海洋底に堆積した遠洋性堆積岩、島弧や大陸から海に流れ込んだ砕屑物などのほかに,海水もスラブとともにマントル中に引き込まれていく。

※2.下部マントル
マントルのうち、深さ660 kmの地点から深さ2900 kmに相当する核の直上までの領域のこと。地球全体の体積の約6割を占める。その化学組成については上部マントルと同様にパイロライトであるとする説と、よりシリカ(SiO2)成分に富んだ組成をもつ物質(ペロブスカイタイト)であるとする説がある。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学金属材料研究所 教授 杉山 和正
TEL:022-215-2075
E-mail:kazumasa*imr.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(取材?報道に関すること)
東北大学金属材料研究所 情報企画室広報班
TEL:022-215-2144 FAX:022-215-2482
E-mail:press.imr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

このページの先頭へ