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特定のレアメタルだけには依存しないリチウム蓄電池正極材料の合成に成功 酸化物におけるハイエントロピー化の効果を浮き彫りに

【本学研究者情報】

〇金属材料研究所 助教 河口智也
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 層状岩塩型構造を単独では形成しない遷移金属*1元素が多数含まれるリチウム遷移金属複合酸化物の合成に成功しました。
  • コバルトやニッケルといった特定のレアメタル*2に依存しない柔軟な材料設計の可能性を示唆するものです。
  • ハイエントロピー*3化によって材料を安定にすることで、高充電時の分解を抑制し、安全性向上に役立ちます。

【概要】

電気自動車などに使用されるリチウム蓄電池の正極材料には、コバルトやニッケルを始めとする特定のレアメタルを多く含む材料が用いられてきました。その理由は、正極材料に適した結晶構造を有する元素がこれらの元素に限られていたためであり、他の安価な元素を混合しようとしても、一定の濃度を超えるといわば水と油のように「相分離」してしまうためでした。

東北大学金属材料研究所の河口智也 助教、卞篠(Bian, Xiao) 氏(東北大学大学院工学研究科修士課程学生)および市坪哲 教授らは、従来のように少数の元素種を混合するのではなく、発想を逆転させ、多数の元素を同時に混合してエネルギー利得(配置エントロピー)を高めることで、層状酸化物構造で構成される単一の相からなる正極材料の合成に成功しました。これにより、これまで利用が困難であった元素が利用可能になるだけでなく、新たな物性の発現や、分解抑制による安全性の向上、特定元素への依存による商業的リスクを低減した、新規な材料開発が可能になると期待されます。また、本研究ではそのようにして得られた正極材料の充放電時における劣化機構の詳細を明らかにすることで、新規高性能材料の開発に指針を示しました。

本成果は2022年4月11日10:00(米国東部時間)に、米化学会が発行するACS Applied Energy Materials誌にオンラインで公開されました。

【用語解説】

*1 遷移金属
遷移元素とも呼ぶ周期表の3族~11族の金属元素。典型元素では、同じ周期の中で族番号が大きくなるごとに、最外殻電子が1つずつ増えていくのとは対照的に、遷移元素では族番号の増加と共に電子は内側の電子殻に電子が入る。そのため、遷移元素では原子番号の隣り合う原子どうしで性質が似ている。また、さまざまな酸化数の化合物を作ることができるため、これらの元素を用いた化合物が蓄電池の電極材料に用いられる。

*2 レアメタル 
地球上での存在量が少ない、または技術的?経済的な理由で精錬?抽出が困難な47種類の金属元素。希少金属とも呼ぶ。

*3 エントロピー 
系の「乱雑さ」を表す状態量。多数の元素が混在した物質は、それぞれの原子の配置パターン数が非常に大きくなるため、原子配列に由来する「配置エントロピー」の絶対値も大きな値とるため、そのような物質はハイエントロピー物質(または材料)と呼ばれる。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

◆研究内容に関して
東北大学金属材料研究所
構造制御機能材料学研究部門
TEL:022-215-2372
助教 河口 智也 (tkawaguchi*imr.tohoku.ac.jp)(*を@に置き換えてください)
教授 市坪 哲 (tichi*imr.tohoku.ac.jp)(*を@に置き換えてください)

◆報道に関して
東北大学金属材料研究所 情報企画室広報班
TEL:022-215-2144 FAX:022-215-2482
E-mail:press.imr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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