2024年 | プレスリリース?研究成果
レアメタルを用いない新しい燃料電池用触媒デザインを提案 ─高い触媒活性も確認、水素社会の発展に期待─
【本学研究者情報】
〇材料科学高等研究所 教授 藪浩
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- レアメタルの代わりに資源豊富な鉄を使った、燃料電池の正極における酸素還元反応(Oxygen Reduction Reaction, ORR)(注1)用の高活性な金属錯体触媒を発見しました。
- 炭素上に吸着した触媒が独特の「ダンスパターン」を形成することを計算実験から予測しました。
- 触媒活性の分子構造?電位?pH依存性を実験的?理論的に予測しました。
- 白金炭素(Pt/C)に替わる触媒探索を行った本研究は、より高性能?低環境負荷?低コストな燃料電池の開発に貢献することが期待されます。
【概要】
持続可能な発展を実現する水素社会において、燃料電池は中心的な役割を果たすことが期待されています。燃料電池の正極で起こる酸素還元反応(Oxygen Reduction Reaction, ORR)は燃料電池の性能を決定する支配要因であり、その反応効率を向上させる触媒として白金炭素(Pt/C)が用いられています。しかしながら資源制約や地政学的理由、そして高コストであることから、白金(Pt)を用いない触媒が求められていました。
東北大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR)のHao Li(ハオ リー)准教授(ジュニア主任研究者)と藪浩教授(主任研究者、同研究所水素科学GXオープンイノベーションセンター副センター長)、北海道大学、及びAZUL Energy株式会社(仙台市、伊藤晃寿社長)からなる研究グループは、高価なPtを用いないM-N-C触媒(注2)の一種で青色顔料として知られる金属アザフタロシアニン誘導体触媒(注3)を合成しました。その触媒活性を水素イオン濃度(pH)に対して系統的に測定し、電場とpHの効果を組み合わせたシミュレーションで性能をベンチマークすることで、実験?理論の両面から高い触媒活性を示すORR触媒の探索指針を見出しました。
本研究成果は、現地時間の3月15日に英国化学会の雑誌であるChemical Science誌のオンライン速報版に掲載されました。
図1. 「ダンスパターン」を示す触媒の分子構造と炭素上での吸着構造。それぞれの分子の外縁部についた官能基の違いが起こす、炭素上の吸着パターンの変化を明らかにした。
【用語解説】
注1. 酸素還元反応(Oxygen Reduction Reaction, ORR)
空気中の酸素を電気的に還元し、過酸化水素(H2O2)あるいは水酸化物イオン(OH-)に変換する反応。燃料電池や金属空気電池における放電時の正極反応であり、発電効率を決める重要な反応の一つ。反応を効率良く触媒するために通常はPt/C等が使用されている。
注2. M-N-C触媒
Pt/Cにおける白金ナノ粒子の代わりに炭素網面中に窒素で錯化された遷移金属(特に鉄やコバルトなど)を導入することで、これらの金属がORR反応の触媒活性サイトになるように設計された炭素触媒。カーボンアロイ触媒の一種であり、金属錯体と炭素源となる高分子などを高温焼成することで得られる。
注3. 金属アザフタロシアニン誘導体触媒
青色顔料として知られる金属フタロシアニンのベンゼン環を窒素を含有するピリジン環に置換した分子であり、研究グループは特に鉄を中心金属として持つ鉄アザフタロシアニンがORR触媒として高い活性を示すことを以前の研究で明らかにしている(参考文献1)。
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学材料科学高等研究所 (WPI-AIMR)
教授 藪 浩(やぶ ひろし)
TEL: 022-217-5996
Email: hiroshi.yabu.d5*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR)
広報戦略室
TEL: 022-217-6146
Email: aimr-outreach*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
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