2024年 | プレスリリース?研究成果
線虫のゲノムで活発に動く新規"転移因子"の発見 形質進化の研究等の今後の展開に期待
【本学研究者情報】
〇生命科学研究科 教授 杉本亜砂子
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 石垣島で発見された線虫シノラブディティス?イノピナータ(Caenorhabditis inopinata)(注1)から、ゲノム上を活発に移動する活性を持つトランスポゾン(注2)を発見しました。
- このトランスポゾンおよびその近縁のトランスポゾンから派生したと推測される小型のトランスポゾンがゲノム内に1000コピー以上存在し、その近くに位置する遺伝子の発現量を増加させる傾向があることを明らかにしました。
- 本研究はトランスポゾンの増幅と転移が、生物の進化に及ぼす直接的な影響を示唆する重要な成果です。
【概要】
トランスポゾン(動く遺伝子)はゲノム上を転移することにより、ゲノム配列の変化を引き起こします。石垣島で最近発見された新種の線虫シノラブディティス?イノピナータ(Caenorhabditis inopinata;以後、C. イノピナータ)のゲノムには、モデル生物として広く用いられているシノラブディティス?エレガンス(Caenorhabditis elegans)よりも多くのトランスポゾンが含まれていることが報告されていました。
東北大学大学院生命科学研究科の畑中龍平大学院生、杉本亜砂子教授らの研究グループは、C. イノピナータのゲノムから、活発に転移する活性を持つ自律性トランスポゾンおよびその近縁のトランスポゾン、さらに、これらから派生したと推測される1000コピー以上の非自律性トランスポゾンを発見しました。また、これらのトランスポゾンは、近傍に位置する遺伝子の転写活性を亢進させる傾向があることも明らかにしました。
本研究成果は、トランスポゾンの増幅と転移が、ゲノム構造の変化を通じて生物の形質進化に及ぼす影響についての貴重な手がかりを提供するものです。
本成果は、2024年4月29日に著者校正版が遺伝学の専門誌GENETICSに掲載されました。
図1. C. イノピナータにおけるトランスポゾン挿入変異体の分離
C. イノピナータ雌成虫の野生型とトランスポゾン挿入によるBli(Blister=水膨れ)変異体。矢頭は表皮上の水膨れを示す。
【用語解説】
注1. シノラブディティス?イノピナータ(Caenorhabditis inopinata):石垣島のイチジク花嚢から最近発見された線虫。モデル生物として60年近く用いられている線虫シノラブディティス?エレガンス(Caenorhabditis elegans)に最も近縁の種だが、この2種間で体長や生殖システム、生育環境などが顕著に異なることから、進化生物学の比較モデル系として注目されている。
注2. トランスポゾン:ゲノム上を転移できるDNA配列。転移することによりゲノム配列の変化や遺伝子変異の原因となり、新たな遺伝的特徴の出現や遺伝的多様性の増加に寄与していると考えられている。
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科
教授?杉本亜砂子
TEL: 022-217-6194
Email: asugimoto*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科広報室
高橋さやか
TEL: 022-217-6193
Email: lifsci-pr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
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