2024年 | プレスリリース?研究成果
宮城の手すき和紙を原料に高強度で高生分解性の複合材料を開発 ─伝統産業回復と環境親和性の同時実現に期待─
【本学研究者情報】
〇大学院環境科学研究科 教授 成田史生
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 宮城県川崎町の伝統工芸品である手漉き和紙と生分解性プラスチックのポリブチレンサクシネート(PBS)(注1)から環境に優しい複合材料(グリーンコンポジット)を開発しました。
- 本グリーンコンポジットの引張強さは和紙およびPBS単体より大幅に向上しております。さらに生ごみや汚泥から作った堆肥のコンポスト(注2)中に入れると、5週間後に80%以上生分解して、6週間後には本グリーンコンポジットとコンポストの内容物を見分けることが困難となりました。
- 生分解性評価指針の提案や、環境にやさしい包装?家具?農業用マルチフィルムなどとしての実用化、伝統和紙の用途開拓につながると期待されます。
【概要】
美しさと強さで有名な伝統的な手漉き和紙は、繊維が長くて丈夫な楮(こうぞ)と呼ばれる植物でできており、歴史が長く多くの文化的意義を持つ素材です。何百年間も本、襖、窓などに使用されてきましたが、最近手漉き和紙の生産量は減少しています。一方、マイクロプラスチック問題を解決すべく、自然環境で生分解されるプラスチックの研究開発が進められています。
東北大学大学院環境科学研究科 博士課程のLovisa Rova氏と修士課程のAlia Gallet--Pandellé氏、王 真金助教、栗田大樹准教授、成田史生教授(工学部材料科学総合学科兼担)は、宮城の伝統和紙と生分解性プラスチック(PBS)からなる新しい複合材料(グリーンコンポジット)を提案?設計し、試作に成功して力学?物理特性と生分解性を明らかにしました。
今回開発したグリーンコンポジットは、宮城県川崎町の手漉き和紙3層とPBSフィルム2層を重ね、ホットプレス成形したものです。60 MPa(612 kgf/cm2)の引張強さを示し、コンポスト中で5週間後に80%以上の生分解率に達しました。また微生物による二酸化炭素(CO2)の発生量、縦弾性係数(注3)、引張強さ、破断伸び、重量の減少量など複合材料の特性変化を調査しました。和紙を混合させることで、プラスチックは強度が向上し、短期間で生分解されますので、和紙の用途拡大が期待されます。
本研究成果は2024年5月9日、複合材料の専門誌Composites Part Aに掲載されました。
図5. (a) 縦弾性係数、(b) 引張強さ、(c) 破断伸びと生分解率の関係
【用語解説】
注1. ポリブチレンサクシネート(PBS):微生物によって最終的に水と二酸化炭素に分解される生分解性プラスチック。
注2. コンポスト:有機物を微生物の働きにより発酵?分解して作製した堆肥。
注3. 縦弾性係数:細い棒を引き伸ばし、縦軸に単位面積当たりの引張り力を、横軸に単位長さ当たりの伸びを示したときに、グラフに描かれる曲線の初期傾き。値が大きいほど硬くて変形しにくい。
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院環境科学研究科
教授 成田史生
TEL: 022-795-7342
Email: narita*material.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院環境科学研究科
情報広報室
TEL: 022-752-2223
Email: kankyo.koho*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)
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