2024年 | プレスリリース?研究成果
特殊な磁性体を使い従来の約4倍高強度の光誘起テラヘルツ波発生に成功 ─素子の単純構造と白金不要な特長を生かして産業応用にも期待─
【本学研究者情報】
〇材料科学高等研究所/先端スピントロニクス研究開発センター 教授 水上成美
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 典型的な磁性体から発生するテラヘルツ波(注1)よりも、約4倍高強度のテラヘルツ波発生を観測しました。
- ワイル磁性体(注2)に特有のトポロジカル物質(注3)の電子構造に由来する巨大異常ホール効果(注4)に起因することを明らかにしました。
- ワイル磁性体における光とスピンの織りなす物性の理解を前進させると同時に、新しい機能性を見出した成果です。
【概要】
現在、トポロジカルな電子構造を有する物質(トポロジカル物質)の基礎的研究が世界各国で精力的に行われています。トポロジカル物質の一つであるワイル磁性体は、巨大な異常ホール効果等を発生することが明らかとなり、国内外の大学や研究機関、企業で産業応用へ向けた材料開発の取り組みがすでに進んでいます。
東北大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR)のマンダル ルマ(Ruma Mandal)助教(研究当時)ならびに同大学大学院工学研究科応用物理学専攻の門馬廉大学院生(研究当時)は、WPI-AIMRの水上成美教授らと共同で、代表的なワイル磁性体であるコバルト?マンガン?ガリウムホイスラー合金(注5)から発生する光誘起テラヘルツ波を観測し、典型的な磁性体からの発生と比べて強度が約4倍高いことを確認しました。
本研究では、ワイル磁性体であるコバルト?マンガン?ガリウムホイスラー合金の単結晶薄膜試料を様々な条件で作製し研究を進めた結果、ワイル磁性体に特有のトポロジカルな電子構造に由来する巨大異常ホール効果が、光誘起テラヘルツ波を増強していることが明らかになりました。ワイル磁性体における光とスピンの織りなす物性の理解を深めるとともに、新しい機能性を見出した成果と言えます。
これまでに開発されたスピン励起のテラヘルツエミッタ(発生器)に比べて発生するテラヘルツ波の強度はまだ低いですが、構造が単純で白金など高価な重金属は不要になります。これらの特長を生かし、今回の技術が次世代の検査技術やバイオ?医療など、様々な産業分野で用いられることも期待できます。
本研究は2024年6月7日に材料科学分野の学術誌NPG Asia Materialsのオンライン版に掲載されました。
図1. (a) ワイル磁性体:コバルト?マンガン?ガリウムホイスラー合金(Co2MnGa)の結晶の模式図。 (b) 光誘起テラヘルツ波:現象の模式図。異常ホール効果を介して、パルス光が電場を誘起し、テラヘルツ波が放射される。本研究では磁性体薄膜に(a)のワイル磁性体を用いた。
【用語解説】
注1.テラヘルツ波
周波数が、電波と光の中間、おおよそ0.3~30テラヘルツ(THz)の電磁波。非破壊検査や、バイオ?医療応用、また第6世代移動通信システム(6G)といった情報通信技術の研究開発が進んでいる。
注2.ワイル磁性体
電子のバンド構造で質量ゼロとなる一対の点(ワイル点)を有する磁性体。ワイル点がない典型的な磁性体に比べて巨大な磁気輸送効果や磁気光学効果を発現する。
注3. トポロジカル物質
物性の多くは物質中の電子構造によって決定されるが、その電子構造に従来みられない際立ったトポロジー(幾何学的性質)を有する物質群をトポロジカル物質とよぶ。
注4. 異常ホール効果
強磁性体において発現する、磁性体の有する磁気によって発生するホール効果。ワイル磁性体においては、強磁性体でなくとも異常ホール効果が発現する。
注5. ホイスラー合金
化学式X2YZで表される元素組成を持つ合金や金属間化合物。XとYは遷移金属元素、Zは典型元素からなる。ホイスラー型とよばれる立方晶の結晶構造を有し、元素の組み合わせで様々な機能性を示す。
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学材料科学高等研究所 (WPI-AIMR)
教授 水上成美
TEL: 022-217-6003
Email:shigemi.mizukami.a7*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学材料科学高等研究所 (WPI-AIMR)
広報戦略室
TEL: 022-217-6146
Email:aimr-outreach*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
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