本文へ
ここから本文です

小惑星リュウグウの水に満ちた化学進化の源流と水質変成の証拠 ―アミノ酸や核酸塩基にいたる原材料を発見―

【本学研究者情報】

〇東北大学大学院理学研究科地学専攻
准教授 古川善博(ふるかわよしひろ)
研究者ウェブサイト

〇東北大学大学院理学研究科地学専攻
教授 中村智樹(なかむらともき)
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 小惑星リュウグウには、水と親和性に富む有機酸群(シュウ酸、マロン酸、クエン酸、リンゴ酸、ピルビン酸、乳酸、メバロン酸など65種を新たに同定)および窒素分子群(有機―無機複合体のアルキル尿素などを含む19種を新たに同定)が、多数存在することを明らかにした。分子進化の源流となるアミノ酸や核酸塩基などの前駆物質の存在を明らかにし、多様な原材料の一次情報を示した。
  • 水に対して敏感な応答性を示すマロン酸(ジカルボン酸)の互変異性を評価し、小惑星リュウグウは、かつて水に満ちた天体であった証拠を示した。小惑星リュウグウの二つのサンプリングサイトの軽元素存在度(炭素、窒素、水素、酸素、硫黄)と安定同位体組成、ならびに、可溶性有機物を総括し、水―有機物―鉱物相互作用による化学進化の記録を捉えた。
  • 本成果は、元素レベルと分子レベルの先鋭的な分析技術と先進的な物質科学の相乗効果によるもので、小惑星ベンヌとの比較考察に重要な評価基準になる。太陽系における始原物質の存在形態と分子多様性の性状を提供し、非生命的な化学進化の源流を探求する上で重要な知見となる。

【概要】

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 大和 裕幸、以下「JAMSTEC」という。)海洋機能利用部門 生物地球化学センターの高野 淑識(よしのり)上席研究員(慶應義塾大学先端生命科学研究所特任准教授)、国立大学法人九州大学大学院理学研究院の奈良岡 浩 教授、アメリカ航空宇宙局(NASA)のジェイソン?ドワーキン主幹研究員らの国際共同研究グループは、慶應義塾大学先端生命科学研究所、ヒューマン?メタボローム?テクノロジーズ株式会社、国立大学法人 北海道大学、国立大学法人 東北大学、国立大学法人 広島大学、国立大学法人 名古屋大学、国立大学法人 京都大学、国立大学法人 東京大学大学院理学系研究科の研究者らとともに、小惑星リュウグウのサンプルに含まれる可溶性成分を抽出し、精密な化学分析を行いました。水と親和性に富む有機酸群(新たに発見されたモノカルボン酸、ジカルボン酸、トリカルボン酸、ヒドロキシ酸など)や含窒素化合物など総計84種の多種多様な化学進化の現況と水質変成(*1)の決定的な証拠を明らかにしました(図1)。その中には、シュウ酸、クエン酸、リンゴ酸、ピルビン酸、乳酸、メバロン酸などのほか、有機―無機複合体であるアルキル尿素分子群を含んでおり、物理因子と化学因子のみが支配する化学進化の源流が明らかになりました。次に、二つのタッチダウンサンプリングサイトの有機物を構成する軽元素組成(炭素、窒素、水素、酸素、硫黄)および安定同位体組成、分子組成、含有量などの有機的な物質科学性状を総括しました(図2)*。

本成果は、初期太陽系の化学進化の一次情報を提供するとともに、非生命的な有機分子群が最終的に生命誕生に繋がる進化の過程をどのように導いたかという大きな科学探究を理解する上で、重要な知見となります。

本研究は、科研費 国際共同研究加速基金(国際共同研究強化, 課題番号:21KK0062)、北海道大学 低温科学研究所共同プロジェクトほか、研究助成の支援を受けて実施されました。

本成果は、2024年7月10日付(日本時間18時)で科学誌「Nature Communications」に掲載されます。

図1小惑星リュウグウの水に満ちた化学進化の源流と水質変成の証拠を伝える巻物:アミノ酸や核酸塩基の原材料を含む多種多様な進化の様子を示した 小惑星リュウグウは、かつて、水(H2O)を豊かにたたえる母天体であり、太陽系内での進化の過程で凍結/融解を繰り返してきた。可溶性成分を高精度に分析することで、親水性の有機分子に記録された「水質変成」の決定的な証拠を見いだした。水と親和性に富む有機酸群(シュウ酸、マロン酸、クエン酸、リンゴ酸、ピルビン酸、乳酸、メバロン酸など65種を新たに同定)および含窒素分子群(アルキル尿素など有機―無機複合体を新たに19種)の総計84種(構造異性体を含む)を新たに発見した。水―有機物―鉱物相互作用を伴う初生的な分子進化が、現在も進行中であると考えられる。

【用語解説】

*1 リュウグウの水質変成:リュウグウは、太陽系全体の化学組成を保持した最も始原的な天体の一つです。そこでは、「水質変成」と呼ばれる水―鉱物―有機物の相互作用によって、初期物質である元素や分子の進化の過程が考えられていました。本報告では、水質変成の分子履歴を復元するために、可溶性成分の親水性分子群の定性的かつ定量的な評価を行いました。

*図2については、下記のプレスリリース本文をご覧ください。

詳細(プレスリリース本文)PDF

*「はやぶさ2初期分析チーム」の【石の物質分析チーム】は東北大学大学院理学研究科の中村智樹教授がチームリーダーを担当されています。
 「はやぶさ2初期分析チーム」につきましては、既出のプレスリリースをご覧ください。

?「はやぶさ2」初期分析チーム
2021年6月より試料の分析開始(https://www.sci.tohoku.ac.jp/news/20210513-11586.html
?リュウグウはイヴナ型炭素質隕石でできている(https://www.sci.tohoku.ac.jp/news/20220610-12128.html
?炭素質小惑星リュウグウの形成と進化:リターンサンプルから得た証拠(https://www.sci.tohoku.ac.jp/news/20220926-12281.html
?小惑星リュウグウ試料の希ガスおよび窒素同位体組成―リュウグウ揮発性物質の起源と表層物質進化―(https://www.sci.tohoku.ac.jp/news/20221021-12313.html
?「はやぶさ2」ミッションによる世界初の小惑星からのガスサンプル:リュウグウからのたまて箱(https://www.sci.tohoku.ac.jp/news/20221021-12314.html
?日焼けで隠された水に富む小惑星リュウグウの素顔(https://www.sci.tohoku.ac.jp/news/20221220-12416.html
?小惑星リュウグウの石から太陽系最初期にできた可能性のある物質を発見 ─原始太陽系星雲内側で形成し、太陽から遠いリュウグウ母天体まで運ばれたか─(https://www.sci.tohoku.ac.jp/news/20230217-12499.html
?小惑星リュウグウ試料中の黒い固体有機物(https://www.sci.tohoku.ac.jp/news/20230224-12512.html
?炭素質小惑星(162173)リュウグウの試料中の可溶性有機分子(https://www.sci.tohoku.ac.jp/news/20230224-12510.html
?小惑星リュウグウでみつかった窒化した鉄の鉱物―太陽系の遠方から辿り着いた窒素に富む塵―(https://www.sci.tohoku.ac.jp/news/20231201-12970.html
?リュウグウの岩石試料が始原的な隕石より黒いわけ 地球に飛来した隕石は大気と反応し「上書き保存」されて明るく変化した(https://www.sci.tohoku.ac.jp/news/20231207-12979.html
?小惑星リュウグウに彗星塵が衝突した痕跡を発見 太陽系遠方から有機物を含む彗星の塵が供給されていたことを示唆
https://www.sci.tohoku.ac.jp/news/20240122-13033.html
?リュウグウ試料に初期太陽系の新しい磁気記録媒体を発見~太陽系磁場の新たな研究手法の確立に期待~
https://www.sci.tohoku.ac.jp/news/20240430-13200.html

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院理学研究科地学専攻
准教授 古川 善博(ふるかわ よしひろ)
電話:022-795-3453
Email:furukawa*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

東北大学大学院理学研究科地学専攻
教授 中村 智樹(なかむら ともき)
電話:022-795-6651
Email:tomoki.nakamura.a8*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院理学研究科
広報?アウトリーチ支援室
電話:022-795-6708
Email:sci-pr*mail.sci.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

このページの先頭へ