本文へ
ここから本文です

ブラックホールに吸い込まれる降着円盤の乱流構造を解明 ─ 最先端スパコンによる超高解像度シミュレーションで実現 ─

【本学研究者情報】

〇学際科学フロンティア研究所 新領域創成研究部
助教 木村成生
研究者ウェブサイト

【発表のポイント】

  • ブラックホール周辺のガスの流れである降着円盤(注1)の複雑な乱流構造を、史上最高解像度のシミュレーションで解明し、大きな渦と小さな渦をつなぐ「慣性領域(注2)」の再現に初めて成功しました。
  • 慣性領域において「遅い磁気音波(注3)」が支配的であることを発見し、降着円盤内でイオンが選択的に加熱される理由の説明を可能にしました。
  • 電波望遠鏡によるブラックホール近傍の観測データの物理的解釈をより高精度に行えることが期待されます。

【概要】

ブラックホールは降着円盤と呼ばれる回転するガスに取り囲まれており、このガスは複雑な乱流状態にあります。しかし、その性質は長年謎に包まれていました。

東北大学学際科学フロンティア研究所(FRIS)の川面洋平助教(現?宇都宮大学データサイエンス経営学部准教授および東北大学大学院理学研究科客員研究員)とFRISの木村成生助教(同大学院理学研究科兼務)は、理化学研究所の「富岳」(注4)や国立天文台の「アテルイII」(注5)などのスーパーコンピュータを駆使して従来にない極めて高解像度のシミュレーションを実施し、降着円盤の乱流が持つ物理的性質を明らかにしました。

特に注目すべきは、大きな渦と小さな渦をつなぐ「慣性領域」において「遅い磁気音波」と呼ばれる縦波が支配的に存在することを発見したことです。この発見により、降着円盤内でなぜ電子よりプラス電荷のイオンの方が効率的に加熱されるのかという観測事実の理論的説明が可能になりました。この研究成果は、2019年4月にブラックホールの影の撮影成功を発表したイベント?ホライズン?テレスコープ(注6)による観測データの解釈にも重要な示唆を与えるものです。

本研究成果は科学誌Science Advancesに2024年8月28日(米国東部夏時間)付で掲載されました。

図1. ブラックホール降着円盤のイメージ図と本研究で行った高解像度シミュレーションによって得られた磁場揺動分布。大きいスケールの渦が分裂していき、細かいランダムな渦構造が生まれる。(クレジット:川面洋平)

【用語解説】

注1. 降着円盤
ブラックホール、中性子星、原始星などの重力源となる中心天体の周りを回転するガスの流れ。ガスはイオンと電子が電離したプラズマ状態にある。乱流によってガスの角運動量保存が破られるために、完全な楕円運動を描かずに徐々に中心天体に向かって落下する。このとき同時に、重力ポテンシャルエネルギーを熱エネルギーへと変換し高温に加熱される。高温になったプラズマはX線などの電磁波を放射する

注2. 慣性領域
一般的に3次元空間における乱流では、大きいスケールにおいて渦が作られ、その渦が小さな渦へと分裂していく。最終的にミクロなスケールにおいて渦が消え、そのエネルギーが粒子の熱エネルギーへと変換される。このとき、渦が作られる大きいスケールと渦が消える小さいスケールの中間を慣性領域という。慣性領域では、単位時間あたりにあるスケールからあるスケールへと輸送されるエネルギー(これをエネルギーフラックスと呼ぶ)がスケールによらず一定となる。

注3. 遅い磁気音波とアルヴェーン波
降着円盤には3つの波が存在する。1つ目は磁力線が弦のように振動する「アルヴェーン波」。2つ目は磁場の強弱が伝わる「遅い磁気音波」。そして3つ目が私達に馴染み深い「音波」である。降着円盤では音波はプラズマと相互作用をあまりしないで高速に伝わり逃げていくのであまり重要ではない。アルヴェーン波は太陽風において支配的に存在することが確認されている。また、過去の研究から遅い磁気音波はイオンを選択的に加熱することが分かっている。

注4. スーパーコンピュータ「富岳」
理化学研究所と富士通が共同開発したスーパーコンピュータ。2020年から2022年まで世界最速。

注5. スーパーコンピュータ「アテルイII」
国立天文台が運用するシミュレーション天文学専用のスーパーコンピュータ。国立天文台水沢キャンパス(岩手県)に設置されており,3.087ペタフロップスの理論演算性能を持つ。

注6. イベント?ホライズン?テレスコープ
地球規模の電波望遠鏡ネットワークを用いて、銀河中心の超巨大ブラックホールの撮影をする国際プロジェクト。これまでM87銀河と天の川銀河にあるブラックホールが作る影を捉えることに成功している。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学 学際科学フロンティア研究所
東北大学 大学院理学研究科天文学専攻
助教 木村 成生(きむら しげお) 
Email: shigeo*astr.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学 学際科学フロンティア研究所 企画部
特任准教授 藤原 英明(ふじわら ひであき)
TEL: 022-795-5259
Email: hideaki*fris.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

sdgs_logo

sdgs09

東北大学は持続可能な開発目標(SDGs)を支援しています

このページの先頭へ