2024年 | プレスリリース?研究成果
レンズレス顕微鏡による光の吸収分布取得をワンショットで実現 -ナノスケール化学反応のリアルタイム観察実現へ大きく前進-
【本学研究者情報】
〇国際放射光イノベーション?スマート研究センター 博士研究員/日本学術振興会特別研究員 阿部真樹
国際放射光イノベーション?スマート研究センター 教授 髙橋幸生(多元物質科学研究所 兼務)
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- レンズレス顕微鏡(注1)で一回の計測から光の吸収分布を得る解析手法を開発しました。
- 計測時間を従来の60分の1以下に短縮し高分解能な像の取得に成功しました。
- 電池や触媒内部における化学反応の動的観察への応用に期待されます。
【概要】
コヒーレント回折イメージング(注1)は、レンズを使用せずに高分解能な観察が可能なレンズレスの顕微手法です。この特徴は特に、高性能レンズの作製が難しいX線領域において有用で、レンズ性能を超える分解能で材料内部の化学状態を観察できることから注目を集めています。しかし、化学状態を観察するために必要な試料による光の吸収分布を表す像(振幅像)を得るためには複数回の計測が必要であり、このことが動的な化学反応の観察への応用を妨げていました。
東北大学国際放射光イノベーション?スマート研究センターの阿部真樹博士研究員(日本学術振興会特別研究員)、石黒志准教授、高橋幸生教授らの研究グループは、コヒーレント回折イメージングにおいて一回の計測でも振幅像の取得が可能になる新たな解析手法を開発しました(図1)。本手法は、従来手法においても一回の計測から得ることができた光波の進み(もしくは遅れ)具合の分布を表す像(位相像)が振幅像と類似した構造を示すことに着目し、その構造類似性を振幅像の取得に活用します。
これにより、約30 nm(ナノメートル、1 nmは10億分の1メートル)という高い分解能を達成しただけでなく、従来手法と同等の精度を持つ振幅像を60分の1以下の計測時間で取得することに成功しました。
本手法は、電池や触媒の内部で生じる化学反応のリアルタイム観察を可能にし、材料の性能劣化メカニズムの解明や新材料開発の加速など、様々な分野で応用されると期待されます。
この成果は、2024年12月13日付で光学およびフォトニクス分野の専門誌Opticaにオンライン公開されました。
図1. ワンショットで振幅像を再構成する開発手法の概念図
【用語解説】
注1.レンズレス顕微鏡、コヒーレント回折イメージング:レンズレス顕微鏡はレンズを使用せずに高分解能な観察を実現する顕微鏡技術の総称で、いくつかの種類がある。その中のコヒーレント回折イメージングという技術では、波の揃った光を試料に照射し、試料からの散乱光が形成する模様をコンピュータで解析することで像が得られる。レンズの性能に制限されないため、特にX線領域で従来の顕微鏡を超える高い分解能を実現できる。
【論文情報】
タイトル:Guided-image-filtering-assisted phase retrieval for amplitude reconstruction in single-frame coherent diffraction imaging
著者: Masaki Abe, Shuntaro Takazawa, Hideshi Uematsu, Yuhei Sasaki, Naru Okawa, Nozomu Ishiguro, Yukio Takahashi
筆頭著者:東北大学国際放射光イノベーション?スマート研究センター 博士研究員/日本学術振興会特別研究員 阿部真樹
掲載誌:Optica
DOI:10.1364/OPTICA.542299
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学国際放射光イノベーション?スマート研究センター
(東北大学多元物質科学研究所 兼務)
教授 高橋 幸生(たかはし ゆきお)
電話:022-217-5166
Email:ytakahashi*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学多元物質科学研究所 広報情報室
電話:022-217-5198
Email:press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
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