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音波の新しい伝播現象を発見 ─次世代の通信技術への展開に期待─

【本学研究者情報】

〇金属材料研究所 准教授 新居陽一
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • ナノメートルスケール(ナノは10億分の1)に加工した磁性材料を用いて表面弾性波(Surface Acoustic Wave:SAW)(注1)の新しい伝播現象を発見しました。
  • 本現象は、磁性体と表面弾性波の角運動量(注2)に起因した効果であることを明らかにしました。
  • 表面弾性波を利用した音響スイッチや高性能フィルターなど新しい通信技術につながることが期待されます。

【概要】

表面弾性波(SAW)は物質表面を伝わる音波であり、周波数フィルターやセンサーなど、現代の通信を支える基盤技術として広く利用されています。その性能向上や新たな性質の開拓は、次世代通信技術や情報処理デバイスの進化に直結する重要な課題です。

今回、東北大学金属材料研究所の新居陽一准教授と小野瀬佳文教授、日本原子力研究開発機構原子力科学研究所先端基礎研究センターの山本慧研究副主幹、理化学研究所創発物性科学研究センターの前川禎通客員主管研究員らからなる共同研究グループは、表面弾性波が磁性材料で作製した回折格子(注3)を通過する際に、非相反回折(注4)と呼ばれる特殊な回折現象を生じることを発見しました。これは通常の回折現象では見られない非対称な回折が生じるもので、これまで光学分野でしか観測されていませんでした。本成果を発展させると、磁場によって表面弾性波の曲がる方向を変えられるようになるため、例えば音響スイッチやこれを用いた高性能な表面弾性波フィルターなどへの応用が期待されます。

本研究成果は、2025年1月14日(米国東部時間)に米国物理学会のPhysical Review Letters誌に掲載されました。

図1. 回折格子による波の回折。(a)通常の回折。回折強度は透過波に対して対称的な強度分布となる。(b)非相反回折。回折強度がn=+1とn=-1の回折波によって異なる非対称性が生じる。またこの非対称性は磁場の向きを反転すると反転する。

【用語解説】

注1. 表面弾性波(Surface Acoustic Wave:SAW)
異なる媒体の界面に局在して伝搬する波のことを表面波といいます。なかでも物質の表面に沿って伝搬する音波を表面弾性波と呼びます。表面弾性波は、表面の原子が回転運動をしながら伝わるという顕著な性質を持っています。またこれを利用したデバイスに表面弾性波フィルターが知られており、一般の携帯電話には複数個実装されています。これは圧電体表面に微細な電極を作製したもので、特定の周波数の電気信号だけが効率よく音波に変換されます。これを利用することで不要な周波数の電気信号を除去する周波数フィルターとして働きます。

注2. 角運動量
物体が回転運動しているとき、その回転の度合いを表す物理量を角運動量といいます。古典的な波動である音波や光においても、変位や偏光の回転モードから角運動量が現れることがあります。また磁性体中では、スピン角運動量と呼ばれる角運動量があります。したがって磁性体などに音波や光が照射されると、音波や光の角運動量と磁性体のスピン角運動量が相互作用することでさまざまな現象が生じます。

注3. 回折格子
回折とは、光や音波などの波が障害物や狭い隙間を通過するときに、回り込んで広がる現象を指します。回折格子は、波の波長に近い間隔で作られた周期的な構造体で、そこで回折した波同士が干渉すると特定の方向に強い波が現れます。この性質を利用した回折格子は、波の波長やエネルギーを調べることができる光学素子として広く使われています。

注4. 非相反回折
非相反性とは、ある方向に伝搬する波と180度反対方向に伝搬する波が異なる性質を持つことをいい、一種のダイオード現象のことです。この回折版である非相反回折は、回折方向の正負で異なる性質を持つことを指します。より正確には、回折波と入射波の差である散乱ベクトルの符号によって性質の異なる振る舞いのことで、通常の回折現象では生じません。

【論文情報】

タイトル:Observation of Nonreciprocal Diffraction of Surface Acoustic Wave
著者:Yoichi Nii*, Kei Yamamoto, Masaki Kanno, Sadamichi Maekawa, Yoshinori Onose
*責任著者:東北大学金属材料研究所 准教授 新居陽一
掲載誌:Physical Review Letters
DOI:10.1103/PhysRevLett.134.027001

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学金属材料研究所
准教授 新居 陽一
TEL: 022-215-2044
Email: yoichi.nii.c1*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学金属材料研究所
情報企画室広報班
TEL: 022-215-2144
Email: press.imr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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