本文へ
ここから本文です

海洋由来の自然毒(ポルチミン)の骨格合成に成功 ?立体保持型カップリングによる独自の合成アプローチ?

【本学研究者情報】

〇大学院生命科学研究科 助教 梅原厚志
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • ポルチミンは、次世代の抗がん剤開発の出発点となるリード化合物(注1)として期待が持たれている天然有機化合物です。
  • 天然から採取できるポルチミンの量はごく微量であるため、化学合成の実現が望まれていますが、その構造の複雑さから容易ではありません。
  • 不斉スタニル化(注2)と立体保持型カップリング(注3)という化学反応を駆使した独自の合成戦略によりポルチミンの骨格合成に成功しました。

【概要】

海産生物由来の環状イミン毒であるポルチミンは、ヒトがん細胞株において非常に強力で選択的なアポトーシス(注4)誘導活性を示すことから、次世代の抗がん剤リード化合物として期待が持たれている天然有機化合物です。ただし、天然から採取できるポルチミンの量はごく微量であるため、創薬研究をはじめとする生命科学研究を行うには、ポルチミンの化学合成の実現が望まれています。しかし、その構造の複雑さから容易ではありません。

東北大学大学院生命科学研究科の梅原厚志助教と佐々木誠教授、佐藤大亮氏 (博士後期課程学生) は、有機分子触媒(注5)を用いた不斉スタニル化と銅触媒を用いた立体保持型カップリングを駆使した独自の合成戦略により、ポルチミンの骨格合成に成功しました。開発した新たな合成戦略は、構造的に複雑な様々な海洋天然物の化学合成に柔軟に応用可能であると考えられます。したがって本研究の成果は、有機合成化学、天然物化学、創薬化学研究の発展に広く寄与すると期待できます。

本研究の成果は、2025年1月22日付で米国化学会誌Organic Lettersにオンライン掲載されました。

図1. ポルチミンの化学構造

【用語解説】

注1. リード化合物: 医薬品開発の出発点となる新薬候補化合物のこと。天然物は、構造および生物活性の多様性が高く、有用なリード化合物となる。

注2. スタニル化: 有機化合物を反応させて有機スズ化合物に変換する反応。通常は、アルキルリチウム種と求電子的なスズ試薬(R3SnClなど)を反応させる塩基性条件で行われる。

注3. カップリング反応: 2つの化学物質を選択的に結合させる反応のこと。溝呂木-Heck反応、根岸カップリング、鈴木-宮浦カップリングが代表的であり、日本人化学者の名がつく反応が多い。有機スズ化合物のカップリング反応を一般的にはStilleカップリングと呼ぶ。天然物合成や医薬品合成に多用されている。

注4. アポトーシス: 多細胞生物の細胞において、さまざまな生理的?病理的要因によって誘導される能動的な細胞死であり、重要な細胞増殖制御機構である。ヌクレオソーム単位で染色体DNAが断片化され、死んだ目印となるホスファチジルセリンが細胞表面に露出される。アポトーシスでは、細胞は萎縮して隣接細胞から離れ、クロマチンの凝縮、核の断片化、細胞膜が壊れないで細胞の断片化などが起こってアポトーシス小体が形成される。細胞の内容物が漏れ出す前にマクロファージなどの周辺の細胞がアポトーシス細胞を貪食するので、細胞内容物の漏出は起こらず、炎症を伴わない。個体発生の過程でさまざまな臓器や組織での余分な細胞の除去、がん化した細胞や内部に異常を起こした細胞の除去、自己抗原に反応する細胞の除去などにおいて重要な役割を果たす。アドリアマイシンやビンブラスチンなどの多くの抗腫瘍薬の作用機構は、アポトーシス誘導によると考えられる。

注5. 有機分子触媒: 金属元素を含まず、炭素?水素?酸素?窒素?硫黄などの元素から成る、触媒作用を持つ低分子化合物のこと。単に「有機触媒」と呼ばれることもある。一般には精密な分子デザインによって、エナンチオ選択的反応(不斉合成)など高度な反応制御を行う触媒を指すケースが多い。

【論文情報】

タイトル:Stereocontrolled Synthesis of Portimine Skeleton via Organocatalyst-Mediated Asymmetric Stannylation and Stereoretentive C(sp3)-C(sp2) Stille Coupling
著者:佐藤大亮、佐々木誠、梅原厚志*
*責任著者:東北大学大学院生命科学研究科 助教 梅原厚志
掲載誌:Organic Letters
DOI:10.1021/acs.orglett.4c04245

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科
助教 梅原厚志
TEL: 022-217-6214
Email: atsushi.umehara.e3*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科広報室
高橋さやか
TEL: 022-217-6193
Email: lifsci-pr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

sdgs_logo

sdgs03 sdgs09 sdgs12

東北大学は持続可能な開発目標(SDGs)を支援しています

このページの先頭へ