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らせん磁気構造の位置が電流で操作できることを実証 ─次世代スピントロニクス素子への応用に期待─

【本学研究者情報】

〇金属材料研究所 教授 小野瀬佳文
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • らせん状に磁気モーメント(注1)が整列したらせん磁性体(注2)に電流を流すと、らせん磁気構造が並進運動(スライディング)を示す現象を実証しました。
  • らせん磁気構造が電流によって操作できるので、それを活用した新しい原理のスピントロニクス(注3)素子の開発が期待されます。

【概要】

らせん磁性体と呼ばれる磁石においては、磁気モーメントがらせん状に整列します。らせん水車に水を流すと回転するのと同じように、ナノスケールのらせん磁気構造に電流を流すと、らせん軸の周りで回転することが理論的に予測されていました。らせん形状は軸周りの回転と軸に沿った並進が同じになるので、この電流による回転現象は並進現象でもあります。

今回、東北大学大学院理学研究科の木元悠太 大学院生、同大学金属材料研究所の関剛斎 教授と小野瀬佳文 教授、東邦大学理学部物理学科の大江純一郎 教授らからなる共同研究グループは、らせん磁気構造に電流を流すと並進運動(スライディング)することを初めて実証しました。これにより、らせん磁性体において、ある位置にどの方向角度を向いた磁気モーメントがあるかが電流で制御できる可能性が示されました。この機能を用いたスピントロニクス素子の実現が期待されます。

本研究成果は、2025年2月5日(米国東部時間)に米国物理学会の学術誌Physical Review Lettersに掲載されました。

図1. 電流で駆動されるらせん磁気構造の並進運動の模式図。らせん軸方向に電流を流すと、磁気モーメントに対し電流と直交する面内で回転する向きのスピン移行トルクが働く。電流の大きさがしきい値を超えると、らせん磁気構造が全体として並進運動を開始する。

【用語解説】

注1. 磁気モーメント
磁性の強さとその向きを表すベクトル量。原子が持つ微小な磁石(原子磁石)としての性質を表し、その配列の仕方によって物質全体の磁気特性が決まります。

注2. らせん磁性体
磁気モーメントがらせん状に回転した磁気配列を持つ物質。一つの原子層内では磁気モーメントが同じ方向に揃っているが、隣接する原子層ごとに少しずつ向きが変わり、物質全体としてらせん状の磁気構造を形成しています。

注3. スピントロニクス
電子の持つ電気的性質(電荷)と磁気的性質(スピン)を同時に利用することで発現する物理現象を明らかにし、工学的に利用することを目指す学術分野。代表的な応用例として、磁性体のスピンの向き(上?下)で情報の読み出しや書き込みを行う、磁気センサーや不揮発性メモリ(Magnetoresistive Random Access Memory; MRAM)などがあります。

【論文情報】

タイトル:Current-induced sliding motion in a helimagnet MnAu2
著者:Yuta Kimoto*, Hidetoshi Masuda, Takeshi Seki, Yoichi Nii, Jun-ichiro Ohe, Yusuke Nambu, Yoshinori Onose*
*責任著者:東北大学大学院理学研究科 大学院生 木元悠太
掲載誌:Physical Review Letters
DOI:10.1103/PhysRevLett.134.056702

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学金属材料研究所
量子機能物性学研究部門
教授 小野瀬佳文
TEL: 022-215-2040
Email: yoshinori.onose.b4*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学金属材料研究所 情報企画室広報班
TEL: 022-215-2144 FAX: 022-215-2482
Email: press.imr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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